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「なあ、セツ。」 最後に振り向いたジークリッドが、ニヤリと意味ありげに声を掛けてきて。 「そこの騎士…ルーファスに飽きたら、俺んとこに来いよ。たっぷり可愛がってやるからさ。」 「ふぇっ…?かわっ…」 「お前なら、いつでも嫁として歓迎するぜ?」 またからかってんのかな~って思ったんだけど…。 ジークリッドは至って本気なようで。 笑いながらも真剣で熱っぽい視線を。オレへと注いでくるものだから…。 「いやいや…オレが男だって知ってんだろ…」 今までの神子が女の子だったから、混同してんのかもだけど。 …と、なんだか照れ臭くなり、上手く流そうとしたんだけども。 「ん?上位の魔族に、男も女も関係ねぇぞ?その気になればガキだって…」 「はぁ?…ええっ!?」 こんな別れ際で衝撃の事実をブッ込まれ、開いた口は塞がらない始末。 だからといって、ジークリッドの誘いを受ける気なんて、更々無かったけど───── 「いやいや、それでも遠慮しと───わわっ…!」 突然、腕を強く引っ張られ。 「るっ、ルー…?」 すとんとルーファスの胸に納められたかと思えば、ぎゅぎゅっと抱き締められてしまい。 更に… 「セツは誰にも渡さない。」 「ッ…!!」 ムッと不機嫌を露にしながら。 きっぱりと告げるルーの姿に、ドキドキせずにはいられなかったという…。 「ふっ…精々、愛想尽かされねぇようにな。」 挑発するよう、ルーを一瞥したジークリッドは。 ラルゴの支える腕を外し、背中を向け軽く手を振ると…しっかりとした足取りで行ってしまった。 ひとり残されたラルゴは、その背を見送った後、一度オレを振り返ると。 「神子…世話になったな。」 すまなかったと、巨漢には不釣り合いな優しい眼差しを向けると… 彼もまた、玉座の奥、バルコニーから勢い良く飛び立つと。吹き抜ける風のよう…一瞬にして消えていくのだった。 しばらくの間、別れの余韻に静寂が流れる。 「何処か義理堅い男でしたね、ラルゴは…。」 剣を交えたオリバーさんは、感慨深げにぽつりと溢し。 「そう…ですね…。」 オレも様々な想いを馳せ… 彼らが去って行った方を見つめながら、くすりと笑みを漏らす。 「敵とは云え…騎士に通ずるところが、ありましたしね。」 いつもはあまり感情的にはならないヴィンも。 ほっとしたよう、安堵の息を吐いていた。 みんなを振り返ると、同じように穏やかな笑顔で迎えてくれる。

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