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⑥
(どうしようっ…緊張し過ぎて、心臓が口から出ちゃいそうだっ…)
変に意識してしまうから…耐え切れず俯き、唇を噛み締める。
何か話さなきゃ、とは思うのだが…
浮わついた頭では気の利いた言葉も何も、思い付かなくて。
ひとり悶々と葛藤していると…
「ふふ…」
ふいにルーが笑みを漏らすので、びっくりして勢いよく見上げたら。ルーはすまないと苦笑いを浮かべて。
「や、そんなに緊張しなくて良いから。」
言いながらオレを安心させようと、優しく背中へと触れてきた。
「だ、だって、あんな風に言われたらっ…そういう意味なのかなって…」
誰だって意識しちゃうに決まってんじゃん…真っ赤になって言い返せば。
ルーはオレが困惑してると勘違いしたのか、表情を曇らせてしまったので…慌てて弁解する。
「べっ…別に、嫌とかじゃなくてっ…」
ただ恥ずかしかっただけで、と素直に打ち明ければ。
「そうだな…私が悪かった…。」
少し意地悪してしまったなと、謝るルー。
そんな何気ない仕草にも、胸がぎゅっと締め付けられてしまい…
言い様のない熱が、この身に刻まれてくのを感じた。
「やっと帰って来れたのにさ…全然一緒にいられなくて、寂しかったからっ…」
ここまで来たら、恥じらいよりも本音を晒け出してしまいたくなり。
ルーの肩に、額を擦り寄せる。
そしたらルーは、オレのまだ乾き切らない髪にさらりと触れてきて…。
「私もだ、セツ…」
「ルー…も?」
ああと答えたルーをおずおずと見上げたら、
眩しそうに微笑まれ。
「こうなる事を、覚悟していたこととはいえ…会えない日々は、セツのことばかり考え…正直、気が気ではなかったよ。」
「ルー…」
間近にあるルーの顔に魅とれてたら、キス…されて。今日はやけに色っぽく見えるなぁとか、ぼんやりと考える。
「ふは…ルー、髪濡れ過ぎ。」
「ああ──…急いでたからな…。」
屋敷に戻ってきたばかりだったからと、シャワーを浴びてきたらしいけど。そりゃ髪も肌も湿っぽいはずだよね。
いつもならオレがルーに指摘されて、拭いてもらってんのに…変な感じ。
らしくない一面にクスクス笑っていると。
ルーは髪を掻き上げながら、照れ臭そうにぽつりと溢した。
「私も存外、緊張しているのかもしれないな…。」
そう告げる姿は、至って普段通りに見えるのに。
「ルーが?ウソウソ、めっちゃ普通にしてるじゃん…」
半信半疑にからかうよう、ぽすっとルーの胸に拳をぶつけたら。その手に大きなルーの手が重ねられ…ぎゅっと押し付けるよう、掴まれて。
「意識もするさ…セツといる時は、いつだって…な。」
「えっ…」
その言葉を知らしめるのは、拳から伝う鼓動であり。オレまでもが感化され、忙しなくなる。
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