413 / 423

エピローグ①

side. T ───────7年後 久し振りに訪れた屋敷の中を、馴れた足取りで向かっていると… 「ティコ!」 鈴の音のように弾む声に名を呼ばれ、渡り廊下から園庭へと視線を移した。と… 「会うの久し振りだねぇ~元気にしてた?」 「あっ、セツ───…じゃなかった、セツ様…」 僕を此処へと招いた本人、異世界から召喚された神子であるセツの姿が、そこにはあり…。 相変わらず人懐っこい満面の笑みで以て、出迎えてくれた。 さらりと風に靡く、伸ばされた黒髪が。 陽光に煌めいて…思わずドキリとさせられる。 「セツで良いよ~。っていうか、またおっきくなったんじゃない?もう17になるんだっけ?」 「や、立場もあるから…」 僕が遠慮すれば、今更でしょってセツはバシバシと腕を叩いてくる。 初めて会った時から、綺麗だなって思ってたけど。 年を重ね、髪を伸ばしたのもあってか… セツは前にも増してどんどん綺麗に、色っぽくなっていて…。 顔を合わせる度に僕は、意識せずにはいられないんだ。 こんな気持ちは捨てなくちゃいけないんだって、 頭では解ってるはずなのに、な…。 「セツも、また伸びたね…。」 「ん?…ああ、髪の話か。」 この世界で唯一存在する、黒髪のセツは。 世界の危機を救う為、女神様によって召喚された異世界の人間であり…神子の名を併せ持つ。 僕が初めて出会ったのも、神子のお役目の最中で。 あの時もし、セツが助けてくれなかったら… 僕はこうして、この場にすら存在していなかっただろう。 「手入れとか面倒だし、邪魔なんだけどねぇ~。ルーがどうしても切るなって言うからさ…。」 セツは命の恩人で、だから特別で… ずっとずっと、僕の憧れの人。 あれから7年も経ち、僕ももう幼子ではなくなってしまったから。 さすがに分別くらいはつくけど。 それだけは未だ変えられず、意味も無く内で燻り続け… 今も尚、拗らせたまま。 内でずっと…もて余してしまっていた。 (だってすごく年上なのに、ずっと綺麗で可愛いし…絵本の中の女神様みたいに、優しいから…) だとしても、この想いは。そろそろお仕舞いにしなきゃって…今日だってそのつもりで、此処に来たんだ。 …出会って早速、折れそうにはなってるけど。 「えっと…今日、は…」 「あ、うん。ごめんな、無理なお願いしちゃってさ…」 セツは神子なんだから、立場でいえば女王陛下と対等なくらいなのに。 全然偉ぶったりせず、僕なんかにも申し訳なさそうにしながら、靡く髪を掻き上げる。 「でも…僕なんかで良かったのかな?騎士としても、まだまだ半人前なのに…。」 孤児だったから、夢とかそんなものを抱く感覚さえ知らなかったけれど。 セツに出会って、命を救われて。 この人が泣かないように、辛い思いをさせないように…強くなりたい、セツを護りたいって欲を覚えてしまったから。 いつもセツの傍で、僕の理想のままを貫く守護騎士が…ルーファス様が羨ましくて。 僕もこうあれたらと。 夢見るようになったんだ。だから…

ともだちにシェアしよう!