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エピローグ①
side. T
───────7年後
久し振りに訪れた屋敷の中を、馴れた足取りで向かっていると…
「ティコ!」
鈴の音のように弾む声に名を呼ばれ、渡り廊下から園庭へと視線を移した。と…
「会うの久し振りだねぇ~元気にしてた?」
「あっ、セツ───…じゃなかった、セツ様…」
僕を此処へと招いた本人、異世界から召喚された神子であるセツの姿が、そこにはあり…。
相変わらず人懐っこい満面の笑みで以て、出迎えてくれた。
さらりと風に靡く、伸ばされた黒髪が。
陽光に煌めいて…思わずドキリとさせられる。
「セツで良いよ~。っていうか、またおっきくなったんじゃない?もう17になるんだっけ?」
「や、立場もあるから…」
僕が遠慮すれば、今更でしょってセツはバシバシと腕を叩いてくる。
初めて会った時から、綺麗だなって思ってたけど。
年を重ね、髪を伸ばしたのもあってか…
セツは前にも増してどんどん綺麗に、色っぽくなっていて…。
顔を合わせる度に僕は、意識せずにはいられないんだ。
こんな気持ちは捨てなくちゃいけないんだって、
頭では解ってるはずなのに、な…。
「セツも、また伸びたね…。」
「ん?…ああ、髪の話か。」
この世界で唯一存在する、黒髪のセツは。
世界の危機を救う為、女神様によって召喚された異世界の人間であり…神子の名を併せ持つ。
僕が初めて出会ったのも、神子のお役目の最中で。
あの時もし、セツが助けてくれなかったら…
僕はこうして、この場にすら存在していなかっただろう。
「手入れとか面倒だし、邪魔なんだけどねぇ~。ルーがどうしても切るなって言うからさ…。」
セツは命の恩人で、だから特別で…
ずっとずっと、僕の憧れの人。
あれから7年も経ち、僕ももう幼子ではなくなってしまったから。
さすがに分別くらいはつくけど。
それだけは未だ変えられず、意味も無く内で燻り続け…
今も尚、拗らせたまま。
内でずっと…もて余してしまっていた。
(だってすごく年上なのに、ずっと綺麗で可愛いし…絵本の中の女神様みたいに、優しいから…)
だとしても、この想いは。そろそろお仕舞いにしなきゃって…今日だってそのつもりで、此処に来たんだ。
…出会って早速、折れそうにはなってるけど。
「えっと…今日、は…」
「あ、うん。ごめんな、無理なお願いしちゃってさ…」
セツは神子なんだから、立場でいえば女王陛下と対等なくらいなのに。
全然偉ぶったりせず、僕なんかにも申し訳なさそうにしながら、靡く髪を掻き上げる。
「でも…僕なんかで良かったのかな?騎士としても、まだまだ半人前なのに…。」
孤児だったから、夢とかそんなものを抱く感覚さえ知らなかったけれど。
セツに出会って、命を救われて。
この人が泣かないように、辛い思いをさせないように…強くなりたい、セツを護りたいって欲を覚えてしまったから。
いつもセツの傍で、僕の理想のままを貫く守護騎士が…ルーファス様が羨ましくて。
僕もこうあれたらと。
夢見るようになったんだ。だから…
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