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「そんなことないだろ~?ティコ、めっちゃ噂になってるじゃんか。騎士の本試験も首席で合格しちゃったし、期待の新星だってさ!」 謙遜しなくて良いよって、セツは笑いながら僕の頭をガシガシ撫でてくる。 セツは大人で、男の人だけど。 細くてか弱くて、今じゃ僕より小さいから… 守ってあげたい…なんて、ついつい思ってしまう。 「あの小っちゃかったティコがさ、こ~んな立派になるなんてなぁ。オレもすっごく嬉しいんだ~。」 えへへって笑う姿は、30手前とは思えないくらい無邪気で愛らしく。 毎度の如く、固いはずの僕の決心を… いとも容易く、鈍らせてくれる。 (そんなの、早くセツの隣に立ちたかったから…) セツはもう僕の恋心なんて、覚えてすらいないだろうけれど。 僕はそんな邪な気持ちだけで。 騎士になるため、必死になって足掻いてきたんだよ? それも… 「セツ、またその様な薄着で…身体が冷えてしまうだろう?」 「ルー!へーきだよ、今日はあったかいし。それに風に当たってる方が、気分も楽になるからさ~。」 そつなく現れ、セツの肩に上掛けを羽織らせるのは…守護騎士のルーファス様で。 彼の顔を認めた瞬間の、セツの顔が。 分かり易いくらい、柔らかなものへと変わっていった。 「今はセツひとりの身体では、ないのだから…」 「解ってるってば~。それより、ルイは?ちゃんと眠ってくれた?」 「ああ、心配いらない。」 会話の端々から、僕には踏み込めない壁を痛感させられているようで。 だからこそ、早く捨ててしまえばいいのに… 僕も存外、どうかしてるよな…。 「あっ、そうだ…おめでとう、セツ。」 体調はどう?と自ら話を振れば。 セツはにっこりと微笑んで。 「今はまだ不安定でさ、すぐ眠くなったり体調崩したりするけどね。今のところは順調だよ~。」 答えてセツは、愛おしそうに自身のお腹を撫でた。 「それで、僕に頼みたいことって?護衛だとは聞いてるけど…」 騎士団長からは、詳しい話を聞かされていなかったから。一体何事だろうかって、ちょっと不安も過ったが… セツは至って平然と答える。 「オレも今は状態だし、あんまり無茶も出来なくなりそうだからさ。」 セツは男だ。 当時はそれが異例の事態だと、大騒ぎにもなっていたけれど。 代々、異世界の乙女が遣わされたとされる神子が、まさかの男だなんてさ…。僕も幼心にあり得ないだろって、最初こそは耳を疑ったくらいだ。 それもセツに出会いセツを知れば、どうでもよくなっていたし。 男だと理解した上でも、恋愛感情としての好きだって自覚するくらい…セツは魅力のある人だったんだから…。 そんなセツがルーファス様達と共に魔王に挑んで、見事勝利を収め。そこから一年程で、残りの結界も全て修復し終えて。 フェレスティナに落ち着いてから、しばらくの後… セツがまさかルーファス様との子を、身籠ってしまうだなんて…さ。 セツ曰く、自分が男であること…ルーファス様の子を産めないことを、悩んでいた時期があったらしく。 そんな矢先…女神様が突然、夢に出てきて。 セツの願いを叶えてくれたんだって… その時はすごく嬉しそうに、話してくれたけど。 ルーファス様が魔王を討ち破った、神子の加護の話といい…男のセツが妊娠して、子どもを産んでしまったことといい。 実際にここまで目の当たりにしてしまうと。 神子に関する奇跡のような伝説は… 強ちデマばかりでは、ないんじゃないかなって思えた。 まあ…細かいことに関しては、男でまだ未熟な僕には、よく解らなかったし。 年頃の僕が根掘り葉掘りと訊ねるには…ちょっと恥ずかしいような話題ではあるので。詳しくは、知らないのだけど…。

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