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⑦
「セツ~、ずっと立ち話では大変だろう?みんなもこっちに来て座ったらどうだい?」
そうテラスの方から声を掛け、手招きするのは守護騎士のひとり、アシュレイ様で。
見ると備え付けのテーブルセットには、既にお茶やお菓子類が並べられていた。
「アシュ、いつ戻って来てたの~?」
「ふふ、少し前にね。せっかくだから、みんでお茶でもと思って。準備して貰ってたんだよ。」
ロロさんとは対照的に、過去の奔放さも何処へやら…すっかり落ち着いてしまったというアシュレイ様は。
少し前に婚約者が出来たらしく。
聞いた話では、結婚間近とも言われていて…。
アシュレイ様の恋愛事情に関しては、噂でしか知らないから。いまいちピンとこないけど。
人って何かしらを期に変わるものなんだなぁと、しみじみと痛感するのだった。
「さっすがアシュ、気が利くなぁ~!」
「ジーナ、めっだよ!ちゃんと手を拭いてからでしょ!」
早速とばかりにジーナさんが飛び付き、お菓子に手を伸ばすと。ほっぺたを膨らませたセイラに、ぺちりと手を叩かれてしまい。
「なんだよ~セイラ、急に冷たくねぇか?」
ジーナさんが手を擦り、わざと痛がる素振りを見せれば…
「どうしたの、セイラ?ジーナのこと、あんなに好き好きって言ってたのに。」
親であるセツも、不思議そうに首を傾げてしまった。
すると…
「ごめんね、ジーナ…わたしにはもう、ティコがいるから!」
『ええ…!?』
その場にいる全員─────特に僕と、ルーファス様が一番驚愕して大きな声を上げ。
しかしセイラは、周りの反応などお構い無しに。トコトコと此方にやって来ると…
ぎゅっと僕の腕を引っ張って抱き付いてきた。
「マジか~…俺、振られてんじゃん~。」
ジーナさんはふざけながら、そう流していたけれど…。なんとなく寂しそうだったり。
「いや~、あのティコがねぇ。昔はあんなに愛らしかったのに…こーんな立派に成長しちゃったものねぇ。」
「ロロさんに言われると、すごく複雑なんですけど…」
騎士として認めて貰えてるような気はするけど。
この人から言われるのは、どこか微妙である。
「皆さん、お揃いのようですね。」
和やかな笑いに包まれる中、最後に姿を見せたのは騎士のヴィンセント様。
眼鏡を正しながら、カッチリとした所作で挨拶する。
「ヴィンも時間作るの大変だったでしょ。アリシア様は元気にしてる?」
「はい、相変わらずですよ。セツの懐妊をご報告しましたら、とても喜んでおられました。体調を気にされていましたので、後日、何かしら身体に良い物を贈ると、張り切っておいででしたよ。」
淡々と報告するヴィンセント様は、幼心に少しおっかない印象を持っていたものだが。
そこはまあ、訂正こそしないが…思ったよりも良い人というか。ああ見えて本当は優しいんだよって、僕が小さい頃にセツが話してたっけ。
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