「柳さん……どこ行くの」 「俺んち。雪ちゃん連れて帰る」 　 　有無を言わせず雪本をタクシーに押し込むと、柳は運転手に行き先を告げる。 　柳は雪本の手をしっかりと握って、運転手に聞こえないように雪本の耳へ低い声で話す。 　 「雪ちゃん。嫌やったら、このままこのタクシーに乗って帰ったらええよ。もし一緒に降りてくれたら、俺、今日雪ちゃんのこと抱くから。着くまでに考えて」 　 　一番怖かったことがいきなりやってきて、雪本は軽くパニックになってしまう。 　このまま柳の家に連れていかれたら、セックスすることになってしまう。 　そんな覚悟はまだ雪本にはなかった。 　 　だけど、このまま帰ったら二度と柳は手に入らないかもしれない。 　セックスできない男なんて恋人にできないと思うだろう。 　本気でぶつかってきてくれた柳を傷つけたくない。 　キスまで許して置いて逃げて帰るなんて、卑怯じゃないかと思ってしまう。 　 　柳につながれた手にじっとりと汗がにじむ。 　あっという間に柳のマンションの前に到着してしまい、柳はお金を払って先に車を降りた。 　 「雪ちゃん。おいで」 　 　柳は微笑みを浮かべながら、雪本に手を差し出す。 　この手を取れば。 　この手を取れば何かが変わるんだろうか。 　雪本は差し伸べられた手を取って、車を降りた。 　車を降りたものの、雪本の足は前に出なかった。 　引っぱろうとする柳の手に軽く逆らって道に立ちつくしてしまう。 　柳は笑いながら、雪本の肩を抱いて誘った。 　 「雪ちゃん。なんて顔してんねんな。俺んち、死刑台とちゃうで」 「でも……俺……」 「そんな怖がらんでええよ。俺、雪ちゃんに酷いことしたりせえへんから」 「でも……もし、できなかったらごめん……」 「なんや、そんなこと心配してたんか」 　 　肩をぽんぽん、と叩きながら柳は笑う。 　 「とりあえず、中はいろ。雪ちゃんは、俺んちの最初のお客さんやで」 　 　２ＬＤＫのこぎれいなマンションの部屋には、まだいくつかのダンボールが片づけられないまま積まれていた。 　 「ちょっと散らかってるけどな。雪ちゃん来るってわかってたら掃除したのに」 　 　柳はリビングのソファーに雪本を座らせると、冷蔵庫から缶ビールを出してきてテーブルに置いた。 　 「テレビでも見てて。俺、汗かいたからシャワー浴びてくるわ」 　 　着替えを片手にシャワーを浴びに行こうとして、柳はふと足をとめて雪本に背を向けたまま言った。 　 「雪ちゃん、逃げ出したかったらまだ逃げれるんやで」 　 　シャワーの音がし始めたのを聞きながら、まだ雪本は迷っている。 　だけど、身体は動かなかった。 　こんなところまで来て、今更逃げ出せない。 　期待させるだけさせて柳を傷つけるだけだ。 　セックスできるかどうかは別として、柳に気持ちだけはきちんと伝えよう。 　 　シャワーから出てきた柳は、テレビもつけずにぼんやりとしている雪本を見て、笑顔を浮かべた。 　隣に座ってふわっと雪本を抱きしめる。石けんの香りが雪本の鼻をくすぐる。 　 「雪ちゃん、ちゃんとおってくれたんや」 「勝手に帰ったりはしませんよ」 「雪ちゃん、ほんまアホやなあ……俺、あんなに何度も逃げるチャンスあげたのに。もう、雪ちゃん俺のもんにしてしまうで？」 　 　雪本は柳の腕の中で小さくうなずく。 　柳は俯き加減の雪本の顔を覗き込み、それから満面笑顔になった。 　 　唇が重なり、優しく舌が絡まる。 　静かな室内にキスの濡れた音だけが響く。 　雪本は気持ちを伝えようと、初めて自分から柳の背中に手を回して抱きしめた。 　ただそれだけでも雪本は心臓が爆発寸前である。 　柳も雪本をぎゅっと抱きしめて、それからぽんぽん、と背中を叩いた。 　 「そしたら、雪ちゃんもシャワー浴びておいで。スッキリするから。あ、着替え出すわな」 　 　柳は嬉しそうに雪本の分のシャツや下着を出してきて渡してやった。 　シャワーを浴びながら雪本は、いつもはそんなに念入りに洗わない場所を石けんで何度も洗っていた。 　 　今から使う場所。 　指を突っ込んで、中の方まできれいに洗おうとしてみた。 　指一本ぐらいは入るよな…… 　二本は入るだろうか…… 　石けんのすべりを借りて、二本ぐらいはなんとか入る。 　だけど三本は……痛いかもしれない。 　 　自分で後ろに指を突っ込みながら、俺は何をしているんだろう、と情けない気持ちになる。 　なんで好きな人とそんな恥ずかしいことをしないといけないんだろう、と思うと泣きたくなってくる。 　 　 　「脱がしてもええ？」 　 　ベッドの上で性急なキスを何度もしながら、柳が余裕のない声で聞いてくる。 　雪本が返事をしないと、柳は起きあがって自分が先に全裸になった。 　 「ほら、俺も脱いだら恥ずかしくないやろ？」 　 　雪本は思わず柳の下半身から目をそむけてしまう。 　アレは指三本なんてもんじゃない…… 　 　張りつめた柳のそれは、雪本のモノよりも一回り大きく、立派に見えた。 　特に先が大きく張り出していて、凶器のようだ。 　男はよくモノの大きさを自慢したりするものだが、突っ込まれる方からすればモノは小さい方がいい。 　それもできれば細い方がありがたい、と雪本は思ってしまう。 　 　柳に脱がされた時、雪本はまだ萎えたままだったが柳は気にせず雪本を抱きしめて、何度もキスをしてくる。 　ベッドで下になってされるがままになるセックスなんて雪本は初めてだ。 　女になったような気持ちである。 　されるがまま、ということは不安なものだ、と思ってしまう。 　キスをしながら柳が指先で乳首に触れてくる。