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―虚無の嵐―

そのピアノの奏で出すメロディは、神秘的な音の旋律だった。調和された曲はまるで、神聖な曲のように相応しく、聴く者の心を内側から不の感情を洗い流すようなそんな美しい曲だった。  暫く何処からか聴こえてくる曲に耳を黙って傾けると、ブランコに揺られながらその曲を黙って聞いた。温かみを感じるその曲を聴いてるうちに俺は自分で閉ざした過去を不意に思い出した。 小さい頃。夕暮れに沈んだ公園に1人でいると誰かが迎えに来て、俺はブランコから降りてその手に掴まると並んで家に帰った。  それはどこか懐かしく、俺はその記憶にとても懐かしい気持ちになった。空虚を切るように自分の中で虚無の嵐がいつの間にか止まると、不意に気がつけばピアノの音は止まり。俺はピアノの曲を聴いてるうちに、いつの間にかブランコの上で眠っていた事に気がついた。  ブランコから立ち上がると家に直ぐに帰ろうとした。すると顔から一瞬、雫が溢れ落ちた。俺は雨かと思い掌を広げてみた。しかし、空は晴れていて雨は降っていなかった。また暫くすると足元に雫が落ちた。 自分の顔を何気に触ってみた。触ると自分の手に涙がついたのだった。俺は唖然とした気持ちで呟いた。 …――ッ!  何だ俺、泣いてるのか…――?  自分の涙に驚いた。既に感情を殺した様な俺の心は、何故だか涙を流していた。 自分の涙に驚いた。既に感情を殺したような俺の心は、何故だか涙を流していた。訳がわからなくなるとそんな自分に少し戸惑った。  何となくその溢れ出る涙の理由を感じとると、そっと涙を袖口で拭き公園を後にした。

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