45 / 121

―虚無の嵐―

とっさに男の腕を掴んだ。 そして体勢が崩れると地面にそのまま2人で倒れた。一瞬の出来事だったので、何が起きたのかもわからなかった。ただ分かる事はいつの間にか俺が上になっていて、男が俺の下になっていた。  被っていた帽子がとれて、男の顔を近くで見た瞬間。俺はハッとした。それは得たいの知れない妙な感覚だった。あの時と同じように俺の心は、一瞬で奴に吸い込まれそうになった。近くで見ると、男というか本当に女の顔に近かった。 「てっ……」 男は俺の下で気がついた。すると呆然としている俺に向かって、いきなり茶化してきた。 「へぇ~。オタクそういう趣味なんだ?」  俺は再びハッとなってその場で言い返した。 『ふざけるな、誰が男なんか…――!』  カッとなって言い返した瞬間、奴は俺の股間をいきなり蹴りあげてきた。一瞬の出来事に、その場で前屈みで悶絶した。 奴はその場から立ち上がると、落ちた帽子を再び頭に被って、俺が悶絶してる姿を離れた場所から見てケラケラと笑った。 「テメー、いきなり何しやがるっ!?』  顔から冷や汗をかきながら敵意を剥き出した。男は余裕の口調で言った。 「あははっ、何だよお前。意外と面白い奴だな」 『笑うなっ!!』  男は可笑しそうにまだ笑っていた。俺はカッとなると言い返した 「お前、ふざけるのもいい加減にしろよ……!」 強い口調で怒って言うと男は周りを見て言った。 「いいのか、そんなに声とか上げて怒鳴ってさ。まわりが俺達の事さっきから見てるぞ。中には、俺達のことを怪しいって思ってる奴もいるかも知れないぜ?」 いきなりそう言われてハッとした。確かに複数の通行人達が俺達の方を見て何故かクスクス笑っていた。中には一部始終を見ていた奴がいるかも知れない。 これじゃあ、怪しい男同士の痴話喧嘩に思われる。俺は咄嗟に奴の右手を掴んで、一気に走った。 『走れっ!!』

ともだちにシェアしよう!