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―深海の魚―
「ねぇ、園咲君!」
「何?」
「今日は放課後、空いてる?」
「何で?」
「良かったら一緒に、またいつもの『遊び』やろうよ?」
渡り廊下で小柄の男子生徒に話しかけられた。彼は大きな目に、瞳がクリクリした可愛らしい顔の少年だった。
声は高く、見た目は中性的な容姿だった。ふわりとした雰囲気に、少し小悪魔っぽさを漂わせた。すれ違い際に声を掛けると少年は彼の傍に寄って腕を取った。
「ね、良いでしょ? 僕と一緒に遊ぼうよ。アレは胤夢つぐむ君としか出来ないからいいよね?」
少年は人懐こい声で彼の顔を覗き込んだ。
「……成田。俺はまだ『やる』とは言ってない。他に頼む奴いねーのかよ」
「ひっど〜い! いつもなら、僕の誘いに乗ってくれるじゃん。なら今日も良いでしょ?」
「お前ってホント、人の話し聞かねーんだな」
「え、もしかして怒った……?」
成田と呼ばれる少年は、彼の顔色を伺うと仔犬のように悄気げた。
「――いいよ、別に予定無いし。付き合ってやる。じゃあ、行こう。『アレ』やるんだろ?」
そう言って彼は別の場所へと歩き出した。少年は『うん!』と明るく返事をすると後ろからついて来て彼の腕に自分の腕を絡ませて並んで歩いた。
「君に断られたらどうしようかと思っちゃった。でも一緒に遊んでくれて嬉しい! だってあんな事、他の人に頼めないじゃん。それに僕にアレを教えてくれたの胤夢君の方じゃん。あんなスリルある遊びはなかなか出来ないでしょ?」
「そうか? 頼めば他の奴もやってくれる。それが、俺じゃなくても…――」
「そんなの絶対ダメ!」
少年は突然、声を上げると彼に怒った。
「なんで?」
「だってそうじゃん、アレは信頼関係で成り立つものじゃん! そう言ったのも君じゃないか! だから僕は君が良いの、他の人に頼むなんて絶対に嫌だ!」
そう言って彼はほっぺを膨らまして怒ってきた。胤夢はそこで小さなため息をつくと『わかった』と言って返事をした。
「エヘヘッ♪ じゃあ、一緒に遊ぼうね! 僕達ずっと友達だよね?」
「そんなこと、先の事は誰にも分からないだろ。でもお前は俺を嫌ったりしないのは分かる。俺達は何処か似てるから。だからきっと友達だ…――」
不意に廊下を立ち止まると、隣にいる少年の顔をジッと見た。真っ直ぐな瞳でその事を話すと彼は照れた表情で小さく頷いた。そして自然に手を繋ぐと二人は夕暮れの校舎を並んで廊下を歩いた。
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