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―深海の魚―

――誰もいない音楽室に2人はいた。成田は自分の鞄から赤いリボンと赤いロープの紐を取り出した。 「ねぇ、胤夢君。どっちが良い? 赤いリボンの方が後で跡も残らないし、可愛いからこれにしようか? ロープだと『いかにも』って感じだから嫌だなぁ。それとも直接、手でする?」  そう言って彼の肩越しに後ろから抱きついて、ニコりと笑った。彼は後ろを振り向くと一言答えた。 「俺はどっちでもいい。好きにしろよ」 「分かった。じゃあ、赤いリボンで『魚ごっこ』しようか?」 「いいよ――」 そう言って胤夢は床の上に仰向けに寝そべった。その上に彼は跨がって乗っかると、赤いリボンを彼の首に通して両手に紐を取った。 「じゃあ、やるよ。途中で苦しくなったら言ってね?」  耳元で話すと彼は首に巻いた赤いリボンを少しづつ締めた。キリキリとさせては、その紐を直ぐに緩めてはまた締めての繰り返しをした。 胤夢は彼に自分の首を締められながら、苦しそうな声を出して、ときどき乱れた息をしながら顔を苦しそうに歪ませた。成田は、そんな彼の顔を上からニコニコした表情で楽しそうに見た。 「ねぇ、どう? 気持ち良い?」 そう言いながら彼の首を締め続けて戯れた。少年達は音楽室で危険な遊びをした。大人達がいない所で禁じられた遊びを楽しむように。彼らは純粋な狂気に魅せられた。 苦しみと快楽の狭間で、彼の意識は段々と頭から離れて薄れていった。呼吸を小刻みに荒くさせながら、ゆっくりと意識の海へと落ちる。 「ねぇ、魚になった?」  その言葉が遠くの方で聞こえる。意識が薄れる中で自分が海の中を泳ぐ魚になる気分になった。何処までも何処までも広い海の中を駆け泳ぐ魚になり、そして何も感じ無くなった。自分が抱えてるものすべてが消えるように、淡い泡沫のように弾けた――。  

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