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―深海の魚―

  『息をして、胤夢君!』  突然、大きな声が聞こえると彼は意識を取り戻してハッと目をあけた。そして、自分の首を両手で押さえると思いっきり息を吸って噎せた。  彼が体をくの字にさせて噎せていると、成田は驚いた顔で話しかけた。 『ゴホゴホッ……!』  「ちょっと大丈夫、胤夢君……! 急に反応が無くなったから、死んじゃったかと思ったじゃん! もう驚かさないでよ!」  そう言って怒ると酷く怯えた顔で声を震わせた。胤夢は体を床から起こすと『大丈夫だ』と言って呼吸を落ち着かせた。 「――で、どうだった。魚になれた?」 「ああ。なれた。お前もやりたいか?」 「うん、僕もやってよ!」 成田は無邪気な顔で明るく返事をした。そして、今度は床に彼が寝そべった。胤夢は彼の上に跨ると素手で細い首に触れた。 「じゃあ、お前も魚にしてやるよ――」 「うん、いいよ!」 そう言って返事をすると、彼は無言の表情で少年の首を両手で少しづつ締めた。死なない程度の力加減でゆっくりと首を締めては手を緩めた。  10秒締めて30秒休むというリズムを繰り返す。その繰り返しをした。それを4、5回続けてるうちに窒息するような感覚に陥った。そして、少年も同じように意識の海へと落ちた――。 泡沫(うたたか)な夢の中で彼は綺麗な魚になって海を泳いだ。胤夢は意識の海に沈んだ彼を見ながら静かに笑った。彼らはその遊びが危険な遊びとしりながらもやめなかった。苦痛からの解放の手段としてそれを続けた。自分の体を愛さず、痛めつける事しか、少年達は癒すすべを知らなかった。  その虚しい程の刹那に、彼らは何かに(すが)り。救いを求めていた。そして、塞いだ傷口を再び開くように。そう何度でも……。  

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