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―深海の魚―
「それでも僕は嫌だよぉ、『大人』になんか、なりたくない! このままの姿が良い!」
「成田……」
「どうして今のままじゃ、いけないの? 大人になる事ってそんなに大事なの…――?」
瞳いっぱいに涙を浮かべる彼を見て、胤夢は何も言わずに黙って頭を優しく撫でた。
「そんなの俺にもわからねーよ。でも、いつかは必ず大人になる。それが生きる事の意味だ」
「っひっく、でも、でもぉ……」
泣きながら話す彼は不安そうな声で、彼の腕の中に泣きすがった。身体を震わす少年の心は自分が大人になっていく姿に絶望した。
「大人になったら今の気持ちもきっと忘れるよ。こうやって君と楽しく話した事も『魚ごっこ』も何もかも全部消えちゃうよ……!」
その不安な気持ちを静かに受け止めると、胤夢は彼に話した。
「――大人になって、忘れる事も良いかも知れない。俺達は同じ気持ちを共有してきた仲だ。それを忘れてこれから大人になるだ。きっと、成田は今のまま、変わらないさ。可愛いままだよ」
「ホントに……?」
「ああ、俺にはわかる」
「キラキラした気持ちも無くならない――?」
「お前の気持ちが変わらなければ『永遠』にだ」
不意に彼が尋ねると、胤夢は真っ直ぐな声で答えた。その言葉に泣き顔をパァっと明るくさせて頷いた。
「――なんか不思議。君が言うと本当に、聞こえてくるみたい。それに何だか安心しちゃった」
「そうか、良かったな……」
「ねぇ、胤夢君もいつかは僕と大人になるんだよね? 君が大人になった時の姿が想像つかないな。きっと、今よりももっと綺麗な人になってるかもしれないね」
彼は隣でそう話すと顔を少し赤らめた。
「いいなー、胤夢君は美人で。僕よりも綺麗で。同じ同性とは思えないくらいさ……」
「やめろ、顔の事は言うな!」
その言葉に胤夢は急に感情を剥き出した。
「こんな顔、大っ嫌いだ! こんな『女』みたいな顔…――!」
そう言って顔を指で引っ掻いて傷をつけた。白い肌からは赤い血が滲みでた。
「駄目だよ、園咲君! そんな風に引っ掻いたら跡が残るよ!?」
「俺は女じゃない……!」
目の前で彼が取り乱すと成田は咄嗟に、両手を掴んで止めた。そして、優しく抱きしめた。
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