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―深海の魚―

「ごめん、ごめんね! 急に嫌な事思い出せて、本当にごめん……!」  そう言って優しく抱きしめると胤夢は、小さな声で涙を堪えるように泣いた。そこにはさっきの彼とは、違う苦しむ様子の彼がいた。そして、肩を震わせて顔を覆った。 「違う、俺は……!」 「胤夢君…――」 暗闇が心に影を落とすように、静かな部屋の中で彼は泣いた。その傍で、成田は彼の苦しみを理解すると黙って寄り添って頭を優しく撫でた。彼の気持ちを落ち着かせると成田は自分の話をした。 「僕にもわかるよ、誰だって好きでそんな顔で生まれたかったワケじゃない。しかも男の子なのに本当やんなっちゃうよね……」  そう言って話すと彼も悲しそうな顔を見せた。   「他の人には絶対にわからないよ。大丈夫、僕は君の味方だよ。だから分かるよ、君の辛さも気持ちも全部……」  「成田…――」    近くで寄り添う友の言葉に気持ちが楽になると、胤夢は不意にある事を話した。 「教えてやる。俺は大人にはならない」 「え……?」 突然、言い出した一言に。彼は不思議そうに聞き返した。 「ねぇ、胤夢君。それって……?」 「成田。俺は――」  夕陽色に染まった教室の中で、胤夢は静かに話した。その言葉が遠くの方で残響となって彼の耳に響いた。一人の少年の決意は、これから起こる未来を予感させるように。  

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