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―傷跡とナイフ―
二人して目が合うと思わず沈黙した。里葎子さんは一瞬、俺の手首を見て驚いた顔をした。気まずい空気が流れた後、彼女は話しかけてきた。
「貴也君、それ……?」
強張った声で聞いてくると俺はそこで戸惑った。これをどう『説明』しようかと――。
自分から切った何て言ったら、きっとまた心配するだろうなと思った。実際に俺は祖父母に迷惑を沢山かけている。その度に、二人を困らせたり心配ばかりさせた。
せっかく薬のお陰で自傷行為 する回数も減って来たのに。またそれが振り返したとなればまた心配するだろうなと思った。だから下を俯いて、目を反らして暫く沈黙した。
「えっと、その……」
上手い言い訳を考えてるうちに、里葎子さんは風呂場の中に入って来て、近くにあったタオルをとっさに掴んで手首に推し当てた。
「大変、手首から血が出てるじゃない! どうしたのこれ!?」
彼女が慌てた様子で再び聞いて来ると、俺はその場で誤魔化した。
「カミソリで毛を剃ろうとした時に手もとを滑らせたんです」
その場で苦し紛れの言いワケをした。普通だったらそんな嘘、直ぐに見破られるのに何故か里葎子さんは俺の話しを信じた。
「普通のカミソリなんて危ないわよ。今度使う時は、カバーが付いてるカミソリを使った方がいいわ」
そう言って彼女は優しく笑って言った。普通だったらこんな馬鹿な事をしたら怒っても、いいはずなのに。返ってその優しさが辛く、胸が締めつけられるように痛くなった。
「……今度からそうします。ごめんなさい」
「ねぇ、貴也君。このままお風呂に入ってたら、手首の処置もできないからお風呂から出ましょうね?」
「はい……」
申し訳なさそうな声で返事をすると、里葎子さんはその場から祖父を呼んだ。そして、慌てた様子でバスタオルを持って駆けつけに来た。その後、二人に付き添われた形で風呂から出て。服を着て腕に白い包帯を巻かれた後、二階の自分の部屋に戻った。
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