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―傷跡とナイフ―
そのままベッドに倒れ込むと、仰向けになって天井を見上げた。湯船に長く浸かっていたから、少し逆上せた気分だった。
さっきの事を思い出すと何故か胸が痛くなる。
あんな顔、させるつもりは無かったのにな……。
あの時、衝動的に自分の手首をカミソリで切っただけだったのに。
罪悪感すら感じ無かったのに。
何故か今は後ろめたい気持ちになる。
切った時は一瞬だけ、胸にある重荷がとれて楽に感じたのに今は少し違う。身近な人を悲しませたような気がした。
「はぁ…。しんどい……」
自傷行為 をしたのは久しぶりだった。多分、半年くらいはしてなかった気がした。薬で暫く、その衝動を抑えていたのに。何でまた同じ事をしたのか自分でもわからない。
それで結局、祖父母を心配させてしまった。とくに里葎子さんはガッカリしただろうな。俺がまたこんな馬鹿な事をしたから――。
急に何故か虚しくなると、さっきの事が頭から離れなかった。
どうして彼女は俺を責めないだ?
あんな事して嘘ついたのに、それでも俺の事を信じるのかよ。
気持ちがグシャグシャになると、横向きになって目を閉じた。すると下の階から祖父母が言い争うような声が微かに聞こえた。
気になってベッドから出ると部屋の扉を少し開けた。下では祖母が祖父を責めていた。内容は、風呂場にうっかり置き忘れた祖父に。祖母が『どうしてあんな目につく所に置くの!? お父さんがしっかりしないから貴也君がまたあんな事したじゃないの!』と言って叱っていた。
それに対して祖父はひたすら謝り続けていた。本当は叱られるのは俺のほうで、お爺ちゃんじゃないのに。おばあちゃんはずっと怒ってばっかりだった。
二人が俺の事で言い争う話しを聞きたく無くなると、開けた扉を静かに閉めて。そのままベッドに戻って毛布に包まった。そして枕を両手に持って耳を塞いだ。
本当は彼女が俺を叱らない理由は分かってる。俺が『駄目』な孫だから。壊れものを優しく扱うように接して来るその優しさが返って自分には、息苦しく感じて胸が痛かった。
「俺さえいなければ幸せなのにな…――」
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