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―傷跡とナイフ―

「君、凄く綺麗だね。まるでお人形さんみたい。その制服、高校生? こんな時間に一人で何してるの。家に帰らなくて大丈夫?」  そう言って太めの男は、息を荒くさせながら近づいてきた。 「何?」 「良かったら家まで送ろうか?」 「アンタには関係ないだろ」 「そんな別に、怪しい人じゃないだから安心してよ。おじさんにも君くらいの息子が居るんだよ。きっと今頃、ご両親が心配しているに違いない。だから家まで送ってってあげる」   脂ぎった顔をハンカチで拭きながら、いきなりおかしな事を話してきた。あからさま怪しさ全開の雰囲気を男は漂わせた。 「アンタしつこいな。早くどっか行けよ、警察に通報するぞ」 「ごっ、ごめんごめん! 今のは忘れて……!」  太めの中年男性は急ぎ足で走って消えた。どうみてもヘンタイ野郎にしか見えなかった。そこで一言『キモっ』と呟くと、その場から離れてまた歩き出した。 そのまま帰る訳でもなく、制服姿のまま繁華街を一人歩いた。途中で二三人の男から、声を掛けられた。その繰り返しだった。  大人はみんな『欲望』の目で俺を見てくる。  誰一人、本当の俺を見ようとはしない。  汚い世界。まるで窒息しそうだ。  

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