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―傷跡とナイフ―

――自分の部屋に入ると、扉に背中をつけてストンと座り込んだ。憂い顔で疲れた溜め息をつき、片手で頭を抱えた。 「勘弁してくれよ……」  不意に心の声を漏らすと、天井を見上げて目を瞑った。暗闇の部屋に月明かりの光が射し込む。胤夢はさっきのことを思い出すと頭を悩ませた。そして、そこから立ち上がると扉から離れた。   机に向かって真っ直ぐ歩くと、上の引き出しを開けて中からカッターナイフを取り出した。そして、それを片方の手で握って、歯先を上に向けてカチカチと鳴らして出した。  静寂に包まれた部屋で、青い月明かりが暗闇の中で顔を照らす。胤夢はカッターナイフを握りながら息を荒くさせると腕の袖を捲って刃先を押し当てた。  呼吸を乱しながら大きく深呼吸をすると、瞳を閉じて顔を上に向けた。そして、ブツブツと祈るように天に向かって呟いた。 手に力を入れると刃先が手首に当たって赤い血が滲み出た。そこで身体が震えると握ったカッターナイフを投げ出して机の物を勢い良く全部退かすとそこで膝から崩れ落ちた。 「ああ、クソッ!」 机の上に凭れると苛立ちの声を上げた。そして、身体を震わせて俯いた。一人苦悩する中で胤夢はバラバラになりそうな心を必死に耐えた。足下に落ちてる写真立てを拾って呟いた。 「母さん…――」 中には色褪せた古い写真が飾られていた。そこに母と一緒に微笑む、幼い頃の自分が写っていた。その笑みは二人とも幸福感に満ちていた。 「ッ……」 瞳から涙が溢れると頬に流れ落ちた。写真立てを腕の中で抱き締めると震えた声で『ごめん』と呟いた。  

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