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―傷跡とナイフ―

「胤夢、起きてるか?」  突然、部屋の外から父の声が聞こえた。名前を呼ばれると身体をビクつかせて、強張った表情で後ろを振り返った。 「な、何……?」 「お前の部屋から大きな物音がしてな。大丈夫か? 何処か怪我はしてないか?」  そう言ってドアノブをカチャカチャと回した。胤夢は息を呑むと写真立てを机に置いて、静かに扉の前まで歩いた。 「――大丈夫、何でもない。気にしないで」 「お前の身に何かあったとおもうと、私はどうにかなりそうだ。頼むからこのドアを開けてくれ」 「本当に大丈夫だから……!」 心配する父に向かって一言言うと、ジッと黙って扉を見つめた。 「頼むから私に顔を見せてくれ」 「父さん心配しないで、俺の事はほっといて――」 「胤夢。ドアの鍵を開けなさい。どうして父さんを中に入れてくれないんだ?」  そう言ってドアノブをガチャガチャと回して、荒く音を立てさせた。そこで彼は一歩後ろに下がると壁際に逃げた。 「胤夢、ここを開けなさい! 胤夢、胤夢!」 「やっ、止めてよ父さん、お願いだから……!」 「どうして父さんに一度も顔を見せてくれないんだ。どうして私を拒む、こんなにお前を心配しているのに……!」 そう言って取り乱しながら話すと扉を大きく拳で叩いた。急に父が豹変すると胤夢は怯えた顔で頭を抱えながら叫んだ。 『頼むから一人にしてくれ!』  大声で言った途端に、ドアノブの音がピタリと止まった。急に廊下が静かになると、胤夢は息を呑んだ。 「……父さん?」 恐る恐る扉の前に近づくと聞き耳を立てた。すると父が廊下で泣いてた。 「胤夢さっきは父さんが悪かった。彼女にあんな事をするつもりは無かったんだ。ただ、父さんはお前がとても大事なんだ。だからついカッとなってしまったんだよ……!」 そう言って話すと彼は噎び泣いた。そして、再び扉を荒々しく叩いた。暴走する父を前に、胤夢は困惑した。  

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