82 / 121
―傷跡とナイフ―
「頼むからどっか行ってよ!」
「胤夢、胤夢っ!」
両手で激しく扉を叩く父に向かって、彼は必死に訴えた。すると悲しそうな声で話した。
「そうか、そんなに父さんが嫌いか……。こんなにお前を愛して大事に思っているのに、私の顔も見たくないと言うのか…――」
「父さん……」
急に落ち込んだように話すと、胤夢は気になって扉を不意に開けた。すると目の前で父が両手を血だらけにしながら、顔を覆って立ったまま泣いていた。その姿に目を奪われた。
「その手…――!?」
余りの衝撃的な出来事に驚くと傍に駆け寄った。するとその手でギュッと抱き締めてきた。
「胤夢、父さんを見捨てないでくれ!」
そう言って彼は泣き縋ると、そのまま部屋の中に押し倒した。床に押し倒された途端に唖然とした表情で言葉を失った。
「頼むから父さんを嫌いにならないでくれ。お前無しでは生きて行けない、本当だ。彼女のことは謝る。私が馬鹿だった……!」
「やめて父さん、もう分かったから…――」
下で身動がとれなくなると困惑した顔で話した。
「手、血が出てる。止めないと……」
「ああ……」
「父さん退いて。今、救急箱持って来る」
胤夢は押し倒された床から体を起こすと、立ち上がろうとした。すると右手を急に掴まれると顔を見た。
「おお、私の胤夢。何処にも行かないでくれ――」
「やめてよ、父さん……」
彼はそう言って手を取ると、自分の左頬に手を押し当てて、顔を擦り寄せると、手のひらに愛しそうにキスをした。胤夢は動揺すると咄嗟に手を振り払った。
ともだちにシェアしよう!