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惹かれ合うさき……

「相葉、頼む!! こないだやった英語の授業のノート俺に見せてくれ!」 「羽柴《はしば》。またかよ――?」  休み時間に同じクラスの男子生徒に頼まれた。前髪をヘアバンドで上げ、チャラい感じの格好をした羽柴は、両手を拝む仕草で頭をペコペコと下げると必死な顔で頼んできた。  教室の奥の窓側に座っていた俺は、コイツとは隣の席だった。だから何でも無い事で人に気安く話しかけてきたり何でも良く頼んできた。初めはウザいから無視していた。それでもしつこく話しかけてくるので俺も何となくコイツとは話した。 「こないだお前にノート見せてやっただろ。俺に何度も頼んでくるな、しつこい」 「そこをどうか頼むよ〜!! これが最後だからお願いします! 困ってる友人を見捨てる気かよ、貴也!」 「その台詞、聞き飽きた。お前の最後最後って、一体《《いつ》》最後になるんだよ? あと人の名前を友達ぶって気安く呼ぶな。馴れ馴れしい」 「ひっでぇ~! 俺達もう友達だろ?」 「お前が勝手にそう思ってるだけだろ。そもそも隣に居る俺の迷惑考えた事あるのかよ」 そう言って迷惑そうに話すと、アイツはおちゃらけながら機嫌を取ろうとした。 「だってよ~、このクラスで俺と仲良くしてくれるのお前だけだしさ。それに頼れるのはお前だけなんだ。だから助けてくれよ、神サマは良く言うだろ。隣人を愛せって?」 その言葉に呆れて溜め息をつくと、顔を見て一言皮肉を呟いた。 「人によるだろ、『人』に。ホントに調子の良い奴だな。分かったこれが最後だからな。午後の授業には俺も使うから昼までには書き写して返せよ」 呆れた顔で机からノートを出すと羽柴に渡した。 「サンキュー、やっぱりお前って頼れるな♪」 「貸しても良いけど焼きそばパン奢れよ。あと、カレーパンもな」 「おう、任せとけ! じゃあ、昼間一緒に屋上で食べようぜ。その時にノート返すからさ」 「ああ、忘れるなよ」 そこで約束すると昼間に屋上で食べる事にした。一瞬、『屋上』と聞いてあの時の事が頭に思い浮かんだ。 夕陽を背にして逆光に佇んだアイツの姿が何故か記憶に蘇った。風に靡いた白い髪。海のような青い瞳に色白で綺麗な顔をしたあの少年は一体、誰だったのか。そして、何処か俺と同じような影を背負ってる気がした。  もしまたアイツと会ったら、俺はその時どうするんだろうか?  誰かを気にする事なんて今まで一度も無かったのに…――。

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