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惹かれ合うさき……

触れた唇の柔らかい感触が微かに蘇った。あの時俺は何故アイツを突き飛ばさなかったのか……。 「なあ、A組に戻るついでにC組の教室を覗こうぜ? もしかしたらそいつ居るかもよ」 「俺は別にいい」 「何で? 見に行こうぜ、俺も気になるし――」 「だからいいって……」 「そんなこと言うなって。お前だって本当は気になってんだろ?」 「うるさい。お前しつこい」 「いいじゃん。行こうぜ、直ぐそこだしさ」 羽柴がしつこく誘ってくると強引に連れて行かれる感じでC組の教室を見に行った。外から中を覗くと窓側の席にあの少年の姿はなかった。一瞬だけアイツがいないことに胸がほっとした。 「ちぇっ、いないな。残念、どんなヤツか見たかったのにな。じゃあ、俺らも教室に戻ろうぜ?」 「ああ…――」 そこから離れると自分達の教室に戻った。入口の前で羽柴は思い出したように立ち止まると後ろを振り返った。そして、俺が貸したノートを手渡してきた。 「そうそう忘れてた。これ、ノートサンキューな!」 「ああ…――」  手渡されたノートを受け取ろうとした時、うっかり下に落としてしまった。羽柴は『何やってるんだよ』と笑いながら言うとそれを拾おうとした。 「悪い、手が滑った」  そう言って二人して同時に拾おうとした時に、羽柴は何かに気がついて話してきた。 「ん? その手首の包帯どうしたんだ?」 急に言われて左手を見ると、袖口のボタンが一つ外れてるのに気がついた。羽柴に手首の包帯を見られると咄嗟に袖口を下げて隠した。 「これは…――」 思わず動揺すると目を反らして黙り込んだ。よりによってこれを他人ではなく、クラスメイトに見られたのは自分でも気まずかった。 自分で自傷行為《リストカット》をしてるなんて噂になったら、全員に馬鹿にされるのは俺でも分かっていた。 「昨日、家の窓拭きを手伝った時に誤って割って怪我したんだ」  その場で思いついた嘘で、左手首の傷を誤魔化した。羽柴は俺の話しを信じた様子で心配してきた。 「大丈夫かよ? お前って見かけによらずにドジとかするんだな。腕、早く良くなるといいな」   「ああ……」 都合が悪いといつだってその時、思いついた嘘で相手を誤魔化す。本当の事を誰かに知られたくないから。でも、何故だろうか。自分がついた『嘘』に胸が時々苦しくなる。それが身近な相手になればなる程――。  

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