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惹かれ合うさき……
「胤夢君って偉いね。ちゃんと、お父さんの誕生日にプレゼントを買って贈るなんて、僕には真似出来ないよ。そう言うの『愛』が無いと出来ない事だし……」
その一言に不意に呟いた。
「愛か……」
自分の中で感じる父親への嫌悪感と複雑な感情。そこにまだ『愛』があるとしたら俺は一体、何に縋ろうとしているのか――。
「分からないんだよ。自分で何を買ったら良いのか。だからお前が選んでくれたら助かる」
ぎこちなく話すと顔を俯かせた。成田は、そんな俺を見て返事をした。
「良いよ、僕に任せて! 胤夢君のお父さん前に見たけど、なんか渋くてカッコ良いよね。それに気品もあって。やっぱりそう言う人には、ちゃんとした物を贈った方が喜ぶだろうね?」
「ああ……」
成田は頼もしく話すと、俺の手を掴んで引っ張った。
「よし! じゃあ、中に入ろう! 僕が一緒に選んであげる。ちなみに予算とかあるの?」
「別に決めてない。これで足りるか?」
そう言って財布の中身を見せると、成田は驚いた目でこっちを見てきた。そして、顔を半分引き攣らせた。
「やっぱり胤夢君の家って凄いや。僕のお小遣いの何十倍だよ」
「そうなのか?」
「じゃあ、中に入ろう!」
二人して店の中に入ると成田は隣で父の誕生日プレゼントを選んでくれた。俺はただ勧められた物を見ながら返事をするだけだった。
どうしてだろうか、この場合。身近な相手に物を贈る時は胸の中が弾むに違いない。それなのに、自分にはそれなが無かった。ただ、いい知れぬ『不安』だけがあった。
夜、家族《ちち》と食事をするだけなのに。何でこんなにも――。
「ねぇ、あのネクタイとか良いんじゃないかな?」
成田が指を指したディスプレイを見た。淡い茶色のドット柄を見て、何となく父に似合いそうだったので。それにして決めると、ネクタイを買って二人で店を出た。
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