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惹かれ合うさき……
夜になる頃、取材を終えた父は胤夢と二人きりで食事をする為に予約した店に、自分で車を走らせて向かった。
自分の『特別な日』に他の誰でも無く。たった一人の家族である大事な息子と誰にも邪魔されずに一緒の時間を過ごす事が彼の望む理想だった。
スマートでエレガントなドレスコードのスーツに身を包んだ彼の姿は、気品が漂う大人の色気を漂わせた。息子と二人で待ち合わせ場合のOCEAN DISH Q’on《オーシャンディッシュクオン》の高級レストランに辿り着くと、彼が店の中に一人で入って来るなり。女性客は皆、視線を向けて目を惹かれた。そんな彼女達には見向きもせずにウエイターの男性に声をかけた。
「今日、予約を取ってある園咲だ。うちの息子は既に来ているかね?」
「少々お待ち下さい。今、確認して参ります」
ウエイターの男性は礼儀正しくお辞儀をすると、予約をしてる席に確認に向かった。そこで佇んで待っていると中年の上品そうなセレブ姿の女性が彼に声を掛けてきた。
「もしかして有名な洋画家の園咲渓人《そのざきけいと》さんじゃありませんか?」
「ええ、そうです」
「まあ、やっぱり! 雑誌に載っていた写真よりもずっと若くてそれに美男ですこと。うちの主人が貴方がお描きになってる絵に一目惚れして前に絵を一枚購入したのを覚えてまして?」
「それは有り難いですね。失礼ですが、その絵はどんな絵でしたか? なにぶん忙しい身なので、絵は沢山描いてまして――」
「ええ、確か天使姿の綺麗な少年と、角が生えた白い馬が一緒に寄り添うような。神聖感が溢れる素敵な絵でしたわ」
「あれですね。ヒアキントスとユニコーンの絵は私も覚えております。貴女の御主人はとても良い物をお買いになった。あの絵は私が一生涯、描いた中でも傑作品の一つに入りますよ」
「まあ、そうなんですか! 描いた御本人が言うのですから間違い無いですわね。私もあの絵は気に入ってますの。余りにも素敵なのでうちの会社の客間に飾ってますのよ。そしたら来る人が皆、あの絵を褒めて下さってますの。夫はその度に、園咲先生から頂いた絵を自慢してましてね」
「思い出しましたよ。あれを描いた時、私も手放すのが少々惜しかったんです。ですが貴女の御主人の熱意に負けましたね。そんなに満足して頂けたなら、私も頑張って描いた甲斐がありますよ。あの絵には10億円以上の価値があるので、これからも大事になされると良いです。では失礼――」
彼は品のある優雅な立ち振る舞いで相手にすると自分の絵について堂々と話した。そして、そこで彼女に会釈をして立ち去った。
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