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惹かれ合うさき……
「フン、いくら綺麗な服を着飾ってもお前は醜いな。品の欠片もないただの『豚』だ。よくもその格好でぬけぬけと私の前に卑しく来れたものだ! 息子が来る前に今直ぐ帰れ、不愉快だ!」
「だっ、旦那様……!」
彼女は彼に罵倒を浴びせられると、驚いた顔で言葉を詰まらせた。奥にあるテーブルの方が騒がしくなると近くに居たウエイターの二人が様子を見に慌ただしく駆けつけた。そして只事ではない状況を察して間に入って声をかけるが、彼はそれでもお構い無しに怒りを露わにした。
「私と息子の大事な時間を貴様が邪魔をするな、食事が不味くなる! さあ、帰れ! 目障りだ!」
「私は胤夢お坊ちゃまに呼ばれただけです。それに旦那様の誕生日を一緒に祝って欲しいと、言われました。そ、それなのに…――」
『何っ!? 図々しいのも大概にしろ! 胤夢がそんな事を言うはずがないだろ!? お前はただ家の事だけを黙って大人しくしてればいいんだ。私達親子に構うな、お前みたいな醜い女を雇ってやっただけマシだと思え!』
冷たく突き放す彼の言葉が胸に刺さると、千尋は両手で顔を被うと泣き出した。見兼ねたウエイター達が彼を宥めると『落ち着いて下さいお客様、他のお客様達の迷惑になります』と嗜《たしな》めた。
「今直ぐその女をこの店から追い出せ、早く追い出せ、追い出すんだっ!!」
「お客様…――!」
『父さん!?』
店の中が騒ぎになると其処に遅れたように、胤夢が現れた。ドレスコードに合わせた白色のジャケットを着たスマートカジュアルな服装で店に来た途端に、父が取り乱してる姿を見て驚くと慌てて声を掛けた。
「ああ、胤夢っ……!!」
父は息子の顔を見た途端に店員の手を振り払って真っ先に駆け寄った。
「胤夢。この女をお前が呼んだなんて嘘だろ……? 今朝、父さんと二人きりで誕生日を祝うって約束したじゃないか。それなのに何故、この女がいるんだ――」
信じられない様子で詰め寄って聞いて来ると、胤夢は黙って父の顔を見てハッキリと言った。
「俺が彼女をここに来るように呼んだ。家族二人きりで誕生日を祝うよりも、他の誰かと一緒に祝った方が賑やかになるだろ?」
「お前っ……!」
「それに父さんは《《昨日》》のこと忘れたのかよ? 彼女にあんな酷い事して。千尋さんは家政婦だけど、普段から家事をよくしてくれている。だから彼女も家族の一員に変わらない!」
「つ、胤夢お坊ちゃま…――!」
真っ直ぐな瞳で父に向かって話すと、泣いてる彼女に一言『大丈夫?』と言って優しく声をかけた。息子に諭されるとそこで黙って唇を噛んだ。
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