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惹かれ合うさき……
「まったく図々しい奴だ。息子の優しさに付け上がるのも大概にしろ! 何で私がお前みたいな、醜悪な女と一緒に自分の誕生日を祝らないといけない!」
『父さん…――!』
再び父が不満を漏らすと、胤夢は千尋に『大丈夫、気にしないで』と言って声を掛けた。彼女を気遣う優しさに彼は嫉妬すると、そこで席を思いっきり立ち上がった。椅子が後ろ向きで倒れるとホールに大きな音が響いた。
「そうか分かったぞ! 貴様、私の可愛い息子をその体で|誑《たぶら》かしたのか!?」
その言葉に二人は驚いた顔で彼の方を見た。父は我を見失うと突然、彼女に掴み掛かろうとした。
「お前っ!!」
「キャッ……!」
彼が彼女に掴み掛かろうとした瞬間に、そこに黒嵜が遅れながら慌てて来た。
「良かった間に合って……! すみません園咲先生途中で渋滞に巻き込まれてしまって遅れました」
『黒嵜君……!?』
彼が現れた途端に、彼は焦って掴んだ彼女の腕をパッと離した。
「おや? どうされましたか、二人して?」
そこで黒嵜は二人の異変に目が止まると、不思議そうに尋ねた。
「なっ、何故お前が此処に……!?」
突然の事に驚くと彼は直ぐに尋ねた。
「僕ですか? 胤夢君にメールで誘われたんですよ。今日は父の誕生日だから一緒に祝って欲しいって」
「何だと…――!?」
その話しに父は思わず胤夢の方を見た。息子の予想外な行動に困惑した表情を見せたのだった。
「それにしても園咲先生、水臭いですよ。まさか今日が、誕生日だったなんて知りませんでした。これじゃ、先生のマネージャー失格ですね。みなさんも仲良くお揃いのようで。僕もお祝いの席にご一緒させて下さい」
「黒嵜さん今日は突然来てもらってすみません。賑やかな席になれば父も喜びます。この空いてる席に座って下さい」
胤夢は父に彼らが此処に来る事を秘密にしていた。そして千尋の隣に彼を座らせた。勝手な行動ばかりする息子に翻弄されると、父は不機嫌な顔をしながら一言『勝手にしろ』と呟いた。
全員がテーブルに揃うと、さっきの出来事がまるで無かったように祝いの宴が始まった。それは、不思議な奇妙な光景だった。あれだけ彼女を平然と罵っていた彼が、人が変わったように。千尋に優しく接した。まさに紳士的に善人の『仮面』を被るようだった。その違いに彼女も戸惑いながらも、彼の優しい振る舞いに安心した顔を見せて笑った。
彼らは一つのテーブルを囲んで、胤夢の父の誕生日を祝うように乾杯をした。大人3人はアルコールが入った高級シャンパンを飲むと、胤夢だけノンアルコールの方を飲んだ。そして、間もなくして出来立てのフランス料理が運ばれてきた。
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