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惹かれ合うさき……
最後にデザートを食べ、食事が終わった頃。レストランの入口で立ち止まって話しをした。黒嵜はほろ酔いした気分で彼らに挨拶をした。
「園咲先生、今日は有難うございました! こんなに素敵なお食事に私も混ぜて下さり、誠に光栄です! いや〜、改めて誕生日おめでとうございます!」
そう言って酔った口調で話すと、彼にハグして抱きついた。
「これこれ、少し酔ったんじゃないのか? まったく大袈裟だな君は――」
彼は苦笑して話すと、それとなく腕を振り解いた。黒嵜は『先生に一生付いて行きます!』と、ぶさけた口調で言うと彼らと別れを惜しんだ。
「――では、私はそろそろ帰ります。千尋さんは、この後どうされますか。3人で一緒に先生の家にお帰りになられますか? もし良かったら僕が貴女の家まで車で送りますよ」
紳士的な態度で千尋に声を掛けると、彼女はそれを断った。
「お誘いありがとうございます。ですが私はタクシーを拾って自分の家にこのまま帰ります。では今日はありがとうございました」
彼女はそう言って断ると、礼儀正しくお辞儀をした。そして、渓人の方を見ると自分の鞄から、プレゼントが入った赤い箱を取り出した。
「あの、旦那様……! さっき渡しそびれましたが私も誕生日プレゼントをご用意しました。もし、良かったら受け取って下さい…――!」
「何?」
千尋は彼に自分が用意したプレゼントを手渡そうとした。それを彼は一瞬、嫌なそうな顔で声に出した。
恐る恐るプレゼントを両手に持って差し出すと渓人は不機嫌な顔で彼女を黙って睨んだ。すると胤夢が一言声を掛けた。
「父さん受け取りなよ。出ないと彼女に悪いだろ?」
「だ、旦那様……」
「……」
「おや、先生?」
一瞬、ピリッと張り詰めた空気が流れた。そして彼は彼女の前でニコッと笑うとプレゼントを素直に受け取った。
「これは気を遣わせてすまないな。ありがとう、千尋君。大事に使わせて貰うよ」
そう言って彼女からプレゼントを受け取ると、紳士的に優しく振る舞った。自分が贈った物を彼が嬉しそうに話すと、千尋は喜んだ顔で照れ隠しした。
「いいえ、とんでもないです。私も尊敬する旦那様のお傍で使えて光栄です……!」
彼女は感謝の気持ちを伝えると、彼らに頭を下げた。
「では私はこれで。皆さんおやすみなさい…――」
千尋は深々と頭を下げると直ぐに立ち去った。黒嵜は指を鳴らして惜しい声で呟いた。
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