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惹かれ合うさき……
その時、羽柴のあの言葉を思い出した――。
『お前と同じで窓側の後ろの席に座ってるってさ』
……窓際の席。
何故かその言葉が脳裏に過ると、其処で視線が教室の窓側の方へと自然に向いた。あの時、屋上で死のうとした瞬間アイツに邪魔された時の記憶が蘇った。
それだけじゃない。あの時アイツを見つけて必死に追い駆けて、街中を走った時の記憶も蘇った。そして、掴まえた瞬間にアイツは俺の手からすり抜けた。
まるで自分が見えない何かに振り回されてるように感じた。そして、アイツにキスされた時の記憶までも蘇ると俺は息を呑んで一瞬、足を止めた。
窓際の席に髪の白い少年が座っていた。その姿を目にした途端に俺は相手に駆け寄りそうになった。少年は退屈そうな仕草で机に頬杖を付いて、窓から見える外の景色を授業中に眺めていた。
何故かその時、自分の視界が鮮やかに見えた。今まで何も無い透明な世界に居た自分にとっては、不思議な感覚だった。少年は見ていた窓から視線を外すと不意にこっちに振り向いて見てきた。
その瞬間、アイツと目が合うと俺は立ち止まったまま黙って見つめた。そして其処だけ輝いて見えた。窓に照らされた光りを浴びてる姿がそう感じさせてるのか、あの時みたいに少年の姿が神秘的に感じた。
「ん、どうした相葉? 急に立ち止まってさ――」
隣にいる羽柴の声に我に返ると、焦って視線を反らした。そして、急ぎ足でその場を離れた。早歩きする俺を見て不思議そうに聞いてきた。
「あれ、お前顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」
「うるさい、さっさと保健室に行くぞ!」
羽柴に言われると焦りながら言い返した。自分でも何だか少し変な気がした。いつもはこんな事、絶対に起きないのに…――。
「あー! しまった、俺とし事がC組の教室を見るの忘れてた。例の男子生徒を見るチャンスだったのに。なあ、もう一度引き返そうぜ?」
「何言ってるんだよ今は授業中だぞ。そんな馬鹿な事言ってないで早く行くぞ。終業のチャイムが鳴る」
「お前は気にならないのかよ。あんなに食い付いてたじゃん?」
「はぁ? 一緒にするなよ。誰が…――」
「じゃあ、お前さっき通る時に顔とか見たか?」
そう言ってしつこく聞いてきた。いきなりそんな事を聞かれると、俺は咄嗟に誤魔化した。
「見てない……」
「ふーん。お前もかよ、残念だったな」
「さっきからうるさいな、俺は見てないって言ってるだろ!」
「何だよ〜ムキになるなって。聞いただけじゃん!」
「うるさいなぁ……!」
見てないと嘘をつくと、しつこく聞いてくる羽柴にウザそうな態度で一言文句を言った。別に隠す理由は無かったが、何となく言いたく無かった。それにアイツを見て一瞬に視界が光り輝いて見えたなんて…――。
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