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第7話―愛の迷路―

 ノートに書いていた鉛筆の芯が折れた。其処でふと我に返ると疲れた溜め息をついた。昨日は結局、朝方まで解放してくれなかった。その後、直ぐに寝たけど寝不足で正直、今直ぐ眠りたい。 昨日も一昨日も同じだ。父さんが海外から帰って来てから毎日、しつこく求められてる気がする……。  これだと身体がいくつあっても保たない。今もこうして、学校に行ける体力がまだ残ってるのが不思議なくらいだ。でも、こんな事がいつまで続けば俺だって耐えられない――。 「……何処でもいいからあの人、また海外に出かけてくれないかなぁ」  授業中に心の声をふと呟いた。そうしたら、英語の教師に『静かにしなさい』と注意された。周りからはクスクスと笑った声が聞こえた。  其処で一泡吹かせようと得意の英語で教師に謝ると、黒板に書かれている英語のスペルが一つ間違いである事を指摘した。教師は間違いに気が付くと慌てて文字を消して書き直した。注意してきた教師に、逆に生徒達の前で恥をかかせた。  周りは俺の流暢な英語の喋りと、機転を利かせた事で一目置いた。斜め向かい側の席に座っていた成田は後ろを振り向くと小声で『ナイス!』と笑うと親指を立てて囁いた。  再び周りが授業に戻る中、俺だけが上の空だった。不意に右手の袖を捲ると父に付けられたキスマークの跡が残っていた。腕だけじゃない、首や胸や、至る所に跡を付けられた。 首筋の所は髪で隠せても、肌が白いから他が目立つ。幸い、今日が体育の授業が無くて良かった。さすがに他人に自分の身体を見せられる状況じゃない。  あの時。父さんは俺の前で愛を証明すると言って、自分の手の平を割れた硝子の破片で自ら切りつけた。あそこまでするなんてどうかしてる。  俺は怖くてただ見ていた。そして、自分を切りつけようとする父を止めようとした時、咄嗟にあんな言葉を言うなんて…――。  きっと父さんだけじゃない。このまま自分の正気を保っていられるのも限界がある。もしかしたら、俺も同じくらい正気を失いかけてるのかも知れない。   そう思うと自分が益々、穢らわしく思える。無理やり体の関係を迫られ。実の父親と毎晩のようにセックスしてるなんて人には絶対に言えない。こんなの間違いで狂ってる、まともじゃない。 受け止めきれない『現実』に、ただ頭を悩ませるしか無かった。もし母さんがまだ生きていたら、父さんはあんな風には壊れなかったはずだ……。

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