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第7話―愛の迷路―

 机の前で深い溜め息をつくと、片手で頬杖をついて窓の外を見た。午後の穏やかな陽射しが、教室の中に差し込んだ。 窓側の席に座っていたから、外から差し込む陽の光が少し眩しく感じた。授業中に周りが勉強してる中で、自分はノートを書かずに考え事をしていた。 ――こんな事いつまで続くだろ。  何処でもいい、自由になりたい……。  ぼんやりとした頭で現実から目を背けた。また家に帰ったら父さんがいる。俺を待ってる。そう思うと、ただ溜め息しか出なかった。 「見て見て、あの背が高い男子生徒! さっきからこっち見てる。もしかして私のこと見てるのかな?」 「あの黒茶の男子生徒、確か1年A組の子じゃない? ずっと見てるからアンタに気があるのかもね」  近くで女子生徒の2人が授業中にヒソヒソと会話をしていた。そして、落ち着かない様子で廊下側の窓をチラチラと見ていた。  彼女達の視線につられると、頬杖をついたまま廊下側の窓に目を向けて振り向いた。すると、其処にあの男がいた。 「あっ……」  前に屋上で揶揄《からか》った時に出会った男が、廊下側の窓から教室の様子を見ていた。そして、何故か俺の方をジッと見ていた。 こないだも街中で偶然みかけて。その後、相手を冷やかしたついでに振り回して遊んでやった。あの男は、まんまと俺に乗せられてたな。  あの男は冷静に見えても、怒ると顔に出やすいから分かりやすい。それに不機嫌になると直ぐムキになる所が面白い。そう言えばあの男の名前は確か…――。  あの時の事を思い出した。揶揄《からか》った後に、ふざけてこっちからキスをした。その時のあの男の驚いた顔が目に浮かんだ。今まで自分から相手にキスをしたら、大体の男は隠した本性を俺に見せてくる。なのにあの男だけは違かった。 普通に驚いた顔をした。俺の中にあるアレに惑わされなかった。だからあの時、あの男を追いかけて下駄箱で名前を知った時に。暗闇から僅かな光りを感じた。それをお前は知らないだろ――。

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