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抜擢 3
「兄さん、これはどういう事?」
「言わなくちゃわからんか?」
質問に質問で返されてムッとする。まさかとは思うが……。
「実は、今回撮影を予定していた『獅子レンジャー』のレッド役のアクターに少し大きめの病気が見つかってしまってね。長期入院が必要だって言う事で撮影に参加することが出来なくなってしまったんだ。そこで急遽代役が必要になったんだが主役の彼と同じような体格の子が中々見つからなくて困っているんだよ」
「……」
やっぱりそういうことか。此処に来た時から薄々そう言う話では無いかと思ってはいた。
だが、自分は一度引退した身だ。
「監督。声を掛けてくださったのは嬉しいですが、僕には主役は務まらないかと」
「腰の怪我は凛君からもう完治していると聞いているよ? 君の復活を望む声も未だに多いんだ。それに、今回はアクションシーンが多い。主役級の役を任せられるような人材がなかなか見つからないんだ。どうか引き受けてくれないだろうか」
「ですが2年もブランクがある僕に出来るでしょうか?」
確かに、引退してから暫く経つが、今でも自分の復帰を望んでいるファンが少なからずいるという話は聞いたことがあった。
だが、現場を離れて久しい自分が現役のアクター達と一緒の動きが出来るとは到底思えない。
「……お前が引退してからも、仕事終わりに毎日ジムに通ったり走り込んだりして欠かさずトレーニングを続けていることは知っている。本当は、アクターの仕事を続けたかったんじゃないのか?」
兄の指摘に一瞬の間が出来る。その沈黙が肯定だと気付いた瞬間、思わず舌打ちしたくなった。
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