17 / 351

抜擢 5

「久しぶり。良かった生きてて。ずっと連絡ないから死んだかと思ってた」 「いやいや、人を勝手に殺すなよ」 「冗談だって。でも、会えてよかった。ずっと会いたいって考えてたから」 そう言ってどこか嬉しそうに微笑む姿は、まるで飼い主を見つけた大型の子犬のようだ。 雪之丞は基本大勢でワイワイするより、一人でいる事を好む。引っ込み思案でいつも現場の隅で一人ゲームばかりしているようなタイプで、人付き合いが苦手だ。 けれど、何故か昔から蓮にだけは懐いてくれていた。 「蓮君は今日は何しに? もしかしてこれから撮影とか!? あ! それとも稽古?」 「残念だけど、どっちもハズレ。ちょっと野暮用でさ」 「……なんだ、そっか」 あからさまに落胆した様子で肩を落とす雪之丞の姿に、思わず苦笑する。 「いつ復帰する?」 大きな体を丸め、おずおずと尋ねて来る。その仕草は、主人に構って欲しいと様子を伺う大型犬を連想させる。 「まだ分からない」 「……そっか。またいつか共演出来るといいな」 そう言って少し寂しそうに笑う雪之丞の笑顔を見て胸が痛くなる。 本音は、自分ももう一度アクターとして活躍してみたい。 だけど、まだ怖いのだ。 また同じ失敗を繰り返すのではないか、という恐怖がどうしても拭えない。 「あぁ」 曖昧に笑って返すと、雪之丞は何か言いたげに口を開きかけたが、そのまま何も言わずに黙って俯いた。 「――棗さん! こんなとこで何やってるんっすか。もうすぐ休憩時間終わっちゃうって」 微妙な沈黙を切り裂くように響いた甲高い声に視線を向けると、首からタオルを掛けた10代と思しき黒髪の少年がこちらに向かって駆け寄ってくる所だった。 「あっ、ごめん。今行く」 「も~、何やってんだよ。ほら、行こ!」 「ごめんってば、|東海《はるみ》君……じゃぁ、また今度。たまには連絡してよ」 「あぁ」 嵐のように去って行った二人の背中を見送り懐かしさに目を細めた。 「見に行ってみるか?」 「え?」 突然の兄の提案に驚いて聞き返せば、兄は相変わらずの無表情のまま「お前が嫌でなければ」と付け加えた。 「いや、今日はいいよ。長旅で疲れてるし」 古い友人が頑張っている姿を見たら、きっと自分も参加したくなる。 だが、今の自分にはそんな資格は無い。 「そうか」 兄は特に追及すること無く、それ以上は何も言わなかった。

ともだちにシェアしよう!