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抜擢 10
だが、その表情はほんの一瞬だった。すぐに元の爽やかな好青年の仮面を被ると、パッと手を離したナギが「またね」と言って呼びに来たスタッフと共に持ち場へと戻って行った。
あまりの変わり身の早さに唖然とし、ハッと我に返る。
なんなんだアイツは!? 顔は同じだが、あの時のエロ可愛い青年とはまるで別人のようだった。
それに、自分を居ないもののように扱った態度が何よりも腹立たしい。
さっきの言葉から察するに絶対にわざとだろう。
自分の事はまるで眼中にないみたいな態度を取っておきながら、兄には愛想よく話しかけやがって……。
(あのくそビッチ……! 何が許さないだ! あんなにいやらしく誘って来たくせに……!! 絶対アイツの本性を暴いて、自分から強請りに来るようにしてやる!!)
悔しいやらムカつくやら、腹立たしいやらで、蓮は無意識のうちに拳を握り締めていた。
「……兄さん」
「なんだ?」
「今回のアクターの仕事。受けるよ」
そう言うと、兄は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐにフッと口角を上げ、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「あの子に惚れたか?」
「はっ!? 馬鹿言わないでくれ。あんなガキはタイプじゃない」
冗談じゃない。誰があんな腹黒男に好意を抱くものか。好きになんて絶対にならない。そう、断じてない!
今はそんな事より、あの男に一泡吹かせてやりたくて仕方がない。あの余裕の面を崩してやりたい。
その為には――。
謎の闘志に包まれながら蓮は壇上に居るナギの姿を睨み付けていた。
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