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懐かしい世界
蓮の復帰を知り、一番喜んでくれたのはかつての同僚である雪之丞だった。
稽古場に顔を出した蓮を見付けた瞬間に、満面の笑顔で駆け寄って来たかと思うと、両手を広げてハグをしてきたのだ。
「おかえりなさい蓮くん!」
「わっぷ、ちょ、雪之丞! 苦しいって」
抱き着かれた勢いでよろけそうになりながらも何とか踏ん張り、背中に回された腕を引き剥がすと、今度は頭をクシャクシャになるまで撫でくりまわされる。
「おい、やめろ」
「あっ、ゴメン! また一緒に出来るんだって思ったら、嬉しくってつい……」
つい、じゃないだろう。喜んでくれるのは嬉しいが大型犬がじゃれつくような勢いで来られても困ると言うものだ。
「流石に2年もブランクがあるから、前みたいには身体が動かないと思うんだけど……。まぁ、やれるだけやってみるつもり」
とは言え、懐かしい稽古場にひとたび足を踏み入れれば、やっぱり自然と気が引き締まる。
久しぶりの感覚に思わず武者震いしそうになるのを堪え、蓮は軽く柔軟体操を始めた。
今日は手始めに何から始めたらいいだろうか? 久々だし、無理せず軽いアップをして、徐々に身体を慣らして行くのがいいかもしれない。
そんな事を考えていると、兄である凛がひょっこりと顔を覗かせた。
途端に現場の空気がピリッと緊張したのがわかる。
雪之丞に至っては蓮の後ろに隠れる様にして大きな体を縮こまらせている。
「ボク、凛さんちょっと苦手」
雪之丞の場合は、ただ単に人見知りなだけのような気がしないでもないが、周囲に居る何人かのアクター達も緊張した面持ちをしていることからも、兄のカリスマ性が伺える。
そう言えば、兄から指導を受けるのはこれが初めてだ。引退する2年前までずっと一緒にアクターとして第一線で互いにやって来ていた。意見を交換する事はあっても、こうしてマンツーマンで指導を受けたことは一度もない。
一体どんな事を言われるのだろうか? 怒られるのか? それとも呆れられてしまうのか?
様々な不安が過る中、凛が口を開いた。
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