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懐かしい世界 2
「まずは蓮。お前の今の実力を見せて貰おうか」
「……え?」
予想外の言葉に蓮は思わず目を瞬かせる。
「えっと、兄さん僕は今日初めてここに来たんだ。だからまずは簡単なアップからって思ってたんだけど」
「悪いがそんな悠長な事をしている時間は無い。お前には1週間で昔の勘を取り戻してもらう。その為には今の現状を知る必要があるんだ」
「……」
一週間と言う短い期間に思わず絶句した。確かに撮影開始は目前まで迫っている。でも、だからって1週間でいきなりアクションシーンをこなせと言われても……。
「出たよ。鬼監督お得意の無茶ぶり」
「稽古がきつくて何人も逃げ出してるもんなぁ」
「実の弟にも容赦ないなんて、流石ストイック」
なんて周囲のメンバー達がヒソヒソと話をしているのを聞いて、そんな言い方はないだろう。と口を開きかけた蓮を、凛が片手で制した。
「問題ない。言いたいやつには言わせておけばいい」
「……っでも……」
「俺は出来ない奴に無理難題を押し付けたりはしない。やるなら徹底的に鍛え上げて完璧な状態で舞台に上げる。それが俺のやり方だ。文句が有るヤツは今すぐこの場から出て言ってくれても構わないんだぞ」
凛の厳しい物言いに、周りはシンと静まり返る。
「今の現状を把握するのは、お前にとっても悪い話では無いはずだ。出来る事と出来なくなってしまった事くらいはしっかりと自分で理解していないと演技以前の話になってしまう」
確かに兄の言うとりだと思った。引き受けると言った以上、中途半端なものを見せるわけにはいかない。
それに、下手な事をしてアイツに馬鹿にされるのだけは絶対に嫌だった。
「わかった。僕は何をすればいい?」
「今から10分で簡単な殺陣を覚えてもらう。手合わせはそうだな……。逢坂、お前コイツの相手をしてやってくれないか」
凛から指名され、渋々と言った様子で立ち上がったのは、先日雪之丞を探しに来ていた、少年だった。
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