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懐かしい世界 4

スゥっと目を細めてぼそりと呟くと、蓮の本性に気付いたのか、彼の頬が引きつるのがわかった。 「……やっぱあんたムカつく」 「ははっ、それはどうも」 「チッ」 舌打ちしながら睨み付けてくる彼を見て、蓮は内心ほくそ笑む。こう言う気の強いクソ生意気なガキは嫌いじゃない。 むしろ大好物だ。まだ何も知らなさそうな身体を弄んで、自分の好みに染め上げて行くのはきっと楽しいに決まっている。 そんな邪な妄想を脳内で繰り広げていると不穏な空気を感じ取った雪之丞が間に割って入って来た。 「ちょ、ちょっと! 蓮君なにやってんのさ。駄目だよ喧嘩は! それに東海も……凛さんに怒られちゃうよ?」 別に喧嘩をしていたわけじゃない。ちょっとクソ生意気なガキをどう教育してやろうかと考えていただけだ。 ――なんて。そんな事、雪之丞に言えるわけがない。 「あぁ、ごめん。喧嘩をするつもりはないから安心しなよ。僕はそこの血気盛んな少年と一緒にしないでくれる?」 「は? 誰が血気盛んだって!?」 「君以外に誰がいるの。自覚無いの? 僕が少し煽っただけですぐにキレるなんて、沸点低すぎでしょ。ほんと子供だな」 「もー、蓮君。駄目だってば。ほら、早く凛さんのとこ行きなよ」 もっと遊んでやりたいが、雪之丞に制止され、渋々と凛の所へ向かった。 「で? 僕はあの子と何をすればいい?」 「随分と逢坂が気に入ったみたいだな、蓮。 先日までやりたくないとごねていたとは思えないくらいノリノリじゃないか」 クツクツと笑いながら指摘され、思わず失笑が洩れた。 「まぁ、ね。ああいう生意気な子は逆に虐めたくなるし、兄さんだってわかっててあの子と僕を組ませたんだろう?」 本当に、凛は乗せるのが上手い。 兄は蓮の好みも性癖も理解しているから、どうすれば蓮を挑発できるかも熟知しているのだ。だからこそ、あえて蓮を煽り立てて逢坂と手合わせさせたのだろう。 「さぁ。どうだろうな? 逢坂は去年から始めたばかりだがかなりの実力者だ。動きも機敏だし、何より再現性が高い。実力は俺が保証する。同じ獅子レンジャーのアクターとして共に行動することになるんだ。仲間の実力くらいは知っていて損は無いからな」 凛はフッと小さく笑うと一冊の台本を差し出して来た。 「ここの付箋が貼ってある部分の殺陣をやって欲しい。10分やるから頭に叩き込め」 「……ハハッ、10分……これ、5ページくらいあるけど?」 「お前の記憶力なら朝飯前だろう?」 「買い被り過ぎだって。でも……兄さんに認められた子なら油断ならないな」 凛がそこまで絶賛するのであれば、彼は相当な手練れなのだろう。 あのクソ生意気な態度が自信に裏付けされたものだとしたら、確かに侮れない。これは気を引き締めていかないと、足元を掬われてしまうかもしれない。 そう思うと同時に、久々に感じる高揚感に蓮は胸が高鳴るのを感じていた。

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