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懐かしい世界 7
「ッ……あんた性格悪いね。わざと煽ってるだろ」
「それはお互い様じゃないかな?」
「はっ、言っとけよ」
再び激しい攻防戦を繰り広げるが、徐々に蓮の方が優勢になって行く。
元々スロースターターでエンジンがかかるまでに時間が掛かる方だったのもあるだろう。やはり身体を動かす事に慣れているだけあって、身体が覚えているようだ。
「はぁ、はぁ……」
10分経過する頃には、明らかに立場が逆転していた。終了を告げるホイッスルの音と共に二人して床にごろりと倒れ込んだ。
「あー、残念。もっとやれると思ってたのに」
「アンタ……なんなんだよ。……どんどんパンチもキックも精度上がってくし……その辺の奴らより全然身体のこなしが違うんだけど」
「なにって、ただのオジサンだけど? 君こそ持久力が足りないんじゃないか?」
額から流れ落ちる汗をシャツの裾で拭いながらにっこり笑って言ってやると、東海が起き上がり胡坐をかいて盛大な溜息を吐いた。
「……っ、やっぱアンタ性格悪……っ」
「ははは、褒め言葉として受け取っておくよ」
「あー、疲れた。マジで悔しい」
「君も中々いい動きだったよ。でも、まだ荒削りだ。そこを上手くカバーすればもっと上手くなると僕は思うな。あと、喧嘩を吹っ掛ける相手を間違うとそのうち痛い目を見るよ」
悔しがる東海を鼻で笑ってやりながら、うーんと伸びをして凛の元へと戻る。
「なんだかんだ言って楽しんでたみたいだな」
「そう? 結構ギリギリだったよ。彼に指摘されたとうりまだまだ、キレも足りないし動きがだいぶ鈍って来てるみたいだ」
「そうは見えなかったがな。まぁ、でもこれで少しはやる気が出ただろう?」
「うん、まぁね」
凛の言葉に素直に答えると、彼は満足そうに微笑んだ。
「それなら良かった。お前主役だからスイッチが入って貰わないと困るからな」
「……後一週間だっけ? それまでには完璧な状態に仕上げてみせるよ。そうじゃないと……馬鹿にされるのは嫌いなんだ」
先日、自分の存在を無視したナギの姿を思い出し、内心チッと舌打ちをする。あんな屈辱を受けるのは二度と御免だ。
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