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秘密の関係 3
今回蓮たちが稽古場として利用している建物の一角にあるシャワー室は全部で5つある。
建物自体が古い作りになっている為、個別のシャワー室が準備されているわけでは無く、大浴場のような脱衣所の扉を開けたらどこぞの俳優さんとバッティングした。なんて事もザラにある。
「あっ……」
「……」
蓮が扉を開けた時、中には既に人がいる気配がした。しかも最悪な事にその相手がナギだった。
向こうもまさかこんなところで出会うとは思っていなかったのだろう。露骨に顔を背けられてムッとする。
久しぶりに会ったというのになんだその態度は。あの夜はあんなに可愛かったのに……。
「……久しぶりだね」
「……」
無視か、この野郎。
「つれないなぁ。あの夜あんなに愛し合った仲だって言うのに」
「わ、ちょ……っ、そう言うの止めてくれない?」
背後から近寄り耳元で囁くと、案の定真っ赤になって振り返ってきた。
「どうして? 君も満更じゃ無かっただろ?」
「……っ、それはそう、だけど……。あの時はアンタが芸能界の関係者だったなんて知らなかったから……」
戸惑いを隠し切れないのか、服の裾を弄りながら目を泳がせる姿はやっぱり可愛いと思う。
「ふーん。知ってたら声を掛けなかったって事?」
「当たり前じゃん! 俺、これから頑張んなきゃいけないし……。だから! こう言う誰が聞いてるかもわからない所であの夜の事蒸し返すの止めてくれる?」
「じゃぁなんで、あの時僕を誘ったんだ? いずれ有名になる予定なんだろう? いつも行きずりの男引っ掛けて発散してるの? それって危なくない?」
この子は自分の矛盾に気が付いていないのだろうか? 有名になった後で過去の男たちから情報をリークされたら、一発アウトなのに。
「ち、ちがっ……いつもはあんな事しないっ、……しないんだけど……」
蓮の言葉に反論しようとしたものの、自分で墓穴を掘っていることに気が付いたのか、次第に語尾が小さくなって行く。
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