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動揺と葛藤 9

「ちょっと! やめてくれる!? はるみんってなんだよっ!」 「えー、だって東海でしょ? 呼びやすくていいじゃない」 「よくねぇよ!」 「ぶはっ、いいんじゃないか? はるみん。可愛いじゃないか」 「……ムカつくッ」 堪えきれないとばかりにニヤニヤしながら蓮が口を挟むと、東海はキッと睨み付けてきた。 「ははっ、まぁまぁ落ち着きなよ、はるみん。苛々してるんなら小魚でも食うか? なぁ、はるみん」 「いらねぇよ! 馬鹿蓮!! アホっ!」 「れ、蓮君。あまりからかっちゃ駄目だよ」 雪之丞が苦笑して注意するが、蓮はニヤリと笑ってみせた。 「なんだよ、雪之丞。いいじゃないか、愛称で呼ばれるってのは親近感があって仲良くなるのにはもってこいだろ?」 「それはそうかもしれないけど……」 「そうだ。雪之丞も何か愛称があればいいんじゃないか? うーん……ゆき? ゆっきー?」 「その人、雪之丞って言うんでしょう? だったら、はるみんに合せてゆきりんでよくない?」 頭を悩ませる蓮に、すかさずナギから横槍が入る。 「あ、それもアリだな。よし、今度から雪之丞の事はゆきりんと呼ぼう」 「ええっ、ゆきりんって」 「可愛いじゃないか。ゆきりん」 「……でも……」 雪之丞が困り顔を浮かべると凛がくくっと可笑しそうに笑う声が聞こえてきた。 「仲が良いのは良いことだ。それでこそチームワークも生まれてくるってものだろう。可愛くていいんじゃないか? はるみんと、ゆきりん」 「凛さんまで!」 止めてくれると思っていた凛にまで肯定されて、東海は明らかにショックを受けたようだった。 「……ッ、おい! ちんちくりん! 俺は認めないからなっ! 下手くそな演技したら許さねぇぞ!」 「はいはい、わかったわよ。仲良くしましょ。はるみん」 「っ、だから! はるみんって呼ぶな!!」 怒り心頭と言った東海の叫びが稽古場全体に響き渡った。 「……ちょっと、終わったら顔貸して」 「……ッ」 笑っていた蓮の耳に、ナギがそっと耳打ちしてきて一気に顔が強張る。 「話があるんだ」 淡々と語る彼の口調からは何の感情も読み取れない。蓮は背中に冷たい汗が流れていくのを感じた。

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