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動揺と葛藤 10
突然の顔合わせの後、ナギに呼び出された蓮は連れ立って休憩室に向かった。
中に誰も居なことを確認し、鍵を掛け、彼と向き合う。
「話って、何?」
恐る恐る尋ねてみるが、ナギはじっと蓮を見つめたまま何も言わない。
やっぱり、怒っているのだろうか。 約束を反故にした不満を言われるのだと覚悟していたが、中々その口からは何も語られない。ただ二人の間に重い沈黙が流れるだけだ。
(やっぱり、俺から謝るべき、だよな)
そうだ、謝らないと――。
「この間は、本当に悪かった」
「あの時は行けなくて、ごめんっ!」
謝罪のつもりで頭を下げようとしたタイミングで互いのおでこがぶつかり、ゴチっと鈍い音を立てる。
「~~~ッ」
なんて石頭なんだ。
蓮はジンと痛む額を押さえながら涙目で彼を見た。
「……」
「……」
痛みのせいで互いに無言になる。先に口を開けたのは、蓮の方だった。
「いきなり頭突きかまされるとは思わなかった」
「それはこっちのセリフ。いくら怒ってるからってありえなくない?」
お互いに言いたいことを口にして、はたっと気付く。
怒っているのはナギの方で自分ではない。
いや、その前に彼はさっき、何と言った?
「行けなくてごめん」自分の耳が正しければ、確かに彼はそう言ったはずだ。
「えっと、勘違いさせたら悪いんだけど……あの日、君は来なかったんじゃなくて、行かなかったの?」
確かめるように恐る恐る尋ねると、ナギはこくりと静かに首を縦に振った。
「あの日、直ぐに終わる予定だった撮影が、一人の我儘な女のせいで長引いちゃって……夜までかかって。元々お兄さんの連絡先も聞いてなかったし、時間も時間だったから流石にもう居ないだろうと思って……」
「そう、だったのか……」
あの日、待たせてしまったと思っていたが、実際はそうではなかったらしい。
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