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動揺と葛藤 22

「ほんっと、信じられない!」 行為後、しばし放心状態だったナギは、体力が回復するなり不貞腐れた様子でそう言った。先程までの乱れっぷりとは大違いである。まるで別人のような変わりように苦笑しつつ、「ごめんね?」と謝罪を口にすると、ジト目で睨まれた。 「反省の色が見えないんだけど?」 「いや? 一応申し訳ないと思ってるよ? でも、元はと言えば君が誘ってきたのがいけないんじゃない?」 そう反論すると、ナギは「うっ」と言葉を詰まらせた。どうやら自覚はあるらしい。 「……それは……っ」 「それに、君だって興奮していただろう?」 「っ、ち、違っ」 「へぇ、違うの? 僕の上でもっと〜っていやらしく腰を振っていたのはどこの誰だったかな? しかも締め付けてきて離してくれなかったし」 「―――っ」 ありのままの事実を突きつけてやれば、顔を真っ赤にしたナギは恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、俯いて黙り込んでしまう。 言うに事欠いて「ムカつくっ!」と吐き捨てるのが可笑しくて、蓮は思わず笑ってしまいそうになった。 「と、とにかく! これから撮影とかで一緒になっても、人前では絶対にこういうことしないでよね! 迷惑だし!」 ふんっと鼻を鳴らしてそう告げるナギは、蓮のトラウマのことなど知る由もない。 大きな不安を抱えたまま撮影をすることに、未だ躊躇いがあると知ったら彼はどう思うだろうか。 「撮影、楽しみだな」 そう言ってはにかんだような表情をこちらに向けてくる。蓮はなんと答えていいかわからず曖昧な笑みを浮かべた。

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