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撮影開始

数日後。蓮は初めての撮影に臨んだ。スタジオに入った瞬間、緊張で心臓が高鳴る。 だが不思議と恐怖はなかった。寧ろワクワクしている自分がいる事に気付く。 用意された衣装に身を包み、セット裏の椅子に座って出番を待つ間、何気なく視線をセットに移すと、ちょうどナギが演技をしている最中だった。 やはり、この子は不思議な魅力を持っている。 演技なのか素なのか、あまりにも自然体過ぎてわからなくなってしまいそうになるくらいには役に馴染んでしまっている。 それに、さっきからミスが一つもない。その場にいる誰もが知らず知らずのうちに足を止めて見入ってしまうほどにナギの演技は完璧だった。 これで駆け出しの新人俳優だと言うから末恐ろしい。 「蓮くん。そろそろ僕らの番だよ」 「あぁ」 呼びに来た雪之丞は、アクター用のスーツを着るとやはり別人のようだ。いつも丸まって自信のなさそうにしている背中はピンと伸び、堂々としていて妙な貫禄がある。  「NGばっか出して足引っ張らないでよ? オジサン」 ピンクの衣装に身を包み、マスクを小脇に抱えた東海に嫌味を言われ、蓮の頬がわずかにひくつく。 「そんなヘマはしないよ。はるみんこそ、ちゃんとやりなよ」 「なにそれ、どういう意味? っていうかはるみんって呼ぶな!」 「言葉通りの意味だけど?」 「は?  むかつくんですけど」 「ははっ」 軽口を叩き合いながらも互いに視線を逸らすことなく睨み合う。 「あーもう! 本番前に喧嘩しないでよ」 困り果てた雪之丞が仲裁に入り、二人はマスクを被るとフンッと互いにそっぽを向いた。

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