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撮影開始 5

「そんな怖い顔しないでよ。可愛い顔が台無しだよ」 「はぁ? 何それ、ほんと意味わかんない」 「褒めてるんだけどな」 「男に褒められたって、ちっとも嬉しくないから!」 キッと睨みつけながら言い放ってくる姿が可笑しくて、思わず口元が緩んでしまいそうになる。 「ほんっとムカつく! オレもう行くから!」 怒りが収まらない様子で踵を返し、足早にセット裏へ戻っていく東海の背中を見送ると、蓮は小さく肩をすくめた。 「あーあ。行っちゃった」 「蓮くんって、意外とSだよね」 「そう?」 「今、東海の反応を絶対楽しんでたでしょう?」 雪之丞に指摘されて、蓮は悪戯っぽく笑って誤魔化した。 その顔を見て、何か思うところがあったのか、雪之丞は呆れたように溜息をつく。 「あんまり意地悪したら駄目だよ?」 「勿論。その位心得てるよ」 「と言うか……。蓮くんはさ……東海のことどう思ってる?」 「ん? どうした? ……まぁ、くっそ生意気だなぁとは思うけど……演技力も中々だったし、悪くはないと思うな」 「それだけ?」 探るような目つきの雪之丞の問いかけの真意がわからず首を傾げる。 「蓮くんはさ……もしかしたら東海のこと好きなんじゃないかなって思ったんだけど」 「はぁ? いやいや、ナイナイ。大体、いくつ違うと思ってるんだ」 確かに、クソ生意気だし、ムカつくし、一度むちゃくちゃにヤってしまおうかと考えたことはあるけれど、そこに好きだという感情は存在していない。 「流石に高校生に手を出すのは犯罪だろ」 「ははっ、そっか。そうだよね」 何処か安心したような、それでいて残念そうな複雑な表情を浮かべた雪之丞は、そっと目を伏せた。 雪之丞の質問の意図がよくわからない。一体何が知りたかったのだろう? 「雪之丞お前、まさか――」 「えっ? ち、ちがっ……」 慌てて否定してくるが、その表情は明らかに動揺している。 これは、もしかして――?

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