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撮影開始6

「そうかそうか、雪之丞。お前、そうだったのか。全然気付かなかったよ」 「え?」 一人で納得し、うんうんと大きく何度も相槌を打つと、雪之丞がキョトンとした顔で見つめ返してくる。 まるで、何を言っているのかと言わんばかりの表情だ。 「なんだよ、水臭いな。それならそうと言ってくれれば良かったのに。応援するし」 「ちょ、ちょっ! 蓮君、何言ってるの!? 何か勘違いしてない?」 あれ? なんか僕、変なこと言ったかな?  そう思って口を開こうとしたその瞬間。 「蓮、ちょっと」 不意に背後から硬い声に呼び止められた。なんだろうと振り向いた先には兄である凛の姿。 鋭い眼光がいつにも増して厳しい光を放っているような気がして、蓮の表情から笑顔が消えた。 何だろう? 怒っているのだろうか? 一体なぜ? 皆目見当も付かずに緊張した面持ちで凛と向き合う。  「お前、さっきの演技はなんだ」 いきなり威圧感たっぷりに問われて、蓮は小さく身じろいだ。 先程の撮影では、蓮はいい感じにアクションをこなしていたつもりだが、凛の目には違った風に映ったらしい。 どこかおかしなところがあったのだろうか? 「どういう意味? 僕はちゃんと台本どうりに動いてた筈だけど」 「あぁ。確かに台本どうりだった。だが、それだけだ」 冷たく言い放たれて、蓮は眉根を寄せた。 「それだけって……」 「台本どうりに動く役者が必要なら、わざわざ嫌がるお前を起用なんてしていない。その辺の役者で充分だからな」 「……」 「引退して、裏方作業をしていたお前に白羽の矢が立った理由をもっと考えろ」 「僕が、駆り出された理由――?」 そんなこと、考えたことも無かった。最初に予定していたレッド役が急遽降板したから、仕方なく自分が選ばれたんじゃなかったのだろうか? それが何故、急にこんなことを言われなければならないのか理解できない。

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