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表裏一体 5
「ふぅん、その凛さんって人、演技専門の監督でしょ? 俺を見るときだけめっちゃ冷めた目ぇしてるんだけど……なんでかな」
そんな二人の会話を聞いて、ナギが不満げに唇を尖らせた。
「それは貴方が、時々集中してないからですよ」
「ぅ……ッ、だって長時間の撮影、苦手だし……」
「アタシも苦手~。集中力続かないよ」
弓弦の指摘にナギが言葉を詰まらせる。それに便乗するように美月も声を上げた。
「美月の場合、演技の練習もだけどもう少し色気出す練習もした方がいいんじゃない?」
「は!? なんですって!? 色気なんて、子供番組なんだから必要ないでしょ!」
東海の一言に、美月が頬を膨らませて反論している。
確かに子供向けの番組なのだから、あまり色っぽいシーンは必要ないだろう。
「そうだけどさ、仕草が男性的なんだよ。俺はやりやすくていいんだけど……。一応紅一点なわけだし……? もっと可愛い仕草を出した方が美月の演技が映えると思うんだけど」
「ぐぬぬ……っ、悔しいけど言い返せないっ」
拳を握りしめ、美月が歯噛みしながら呟く。ビールをグイッと一気飲みする姿には何処か逞しさすら感じられる。
見た目が幼いので、酒を飲んでいる姿には違和感しかない。
「すみませーん! ハイボール」
「えっ、あっ、あの……未成年の方の飲酒はご遠慮いただいておりますので」
「失礼ね! これでも22歳なんだから! ほら、ちゃんと確認して!!」
そう言って免許証を見せる彼女を今日何回見ただろうか。
「姉さん……。あまり飲みすぎない方が……」
「大丈夫。自分の限界位ちゃんとわかってるから。あぁ、それと、串の盛り合わせと、山芋の鉄板焼きと~……」
「……よく食うな……女のくせに」
弓弦の制止も聞かず、美月はどんどん注文をしていく。その様子を呆れたよう見つめながら、東海が小さくため息を吐いた。
「女のくせに、は余計でしょ!」
「いやぁ、もっとおしとやかにしとかないとモテないぞ。ただでさえ中学生か小学生にしか見えないんだからもう少し女らしくしろよ」
「っ、うるさいっ! 余計なお世話よっ! だいたい、はるみんだってそんな嫌味ばっか言ってたらモテないんじゃない?」
「んなっ!? それは……っ、関係ないじゃん!」
ぎゃいぎゃいと言い合いを始めた二人を見て、弓弦がヤレヤレと肩を竦め、席を端の方へと移動していく。
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