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失踪7
「元々、監督夫婦の仲は冷え切っていたようなんだが、ここ一カ月ほど監督の周辺で他にも色々と小さな問題が立て続けに起きていてな。プロジェクトを止めるわけにはいかないし、撮影で動けない猿渡の代わりに俺が出向いて対応していたんだ」
酷く疲れた様子で凛はため息交じりに言った。なるほど。だから、今まで姿を見せなかったのか。兄は口が堅いし頭も切れる。監督とは20年来の仲で結婚式にも呼ばれるほどの仲だ。口下手な所がたまにキズだが、よほど信頼されているのだろう。
だが、自分の尻ぬぐいは自分でしろよと、監督に対して憤りを覚える。よくもまぁ、自分たちの前に出て来れたものだ。
兄には恐らく何かしら理由があっての事だろうと察してあえて聞かなかったのだが……。まさかこんな事になっていたとは思いもしなかった。
きっと、色んな事を一人で抱え込んでいたに違いない。
凛も凛で何故、断らなかったのだろうか? 兄の性格なら嫌な事は嫌だと言いそうな気もするのだが。
ふぅ……と小さくため息をつく。
それにしても、どうしてこうも悪い事が重なるんだ。何か裏で手を引いてる奴がいるんじゃないかと疑いたくもなってくる。
「今回の件、流石にアイツも精神的に参ってしまったらしくてな、暫くは現場に復帰できそうにも無いらしいんだ。だから、今回からは俺が演技指導に加えて撮影の方も担当することになった」
「精神的にって……そんなの自業自得じゃないか。なんで兄さんが……」
「担当って言ったって凛さんが指導してくれるのは嬉しいけどさ……、CGもない、お金もないのにどうしろって言うんだよ」
ポツリと呟かれた東海の一言に、一同は押し黙る。
撮影に使える時間も限られているし、予算も少ない。
おまけにCGは使えないとなれば、視聴率が取れる見込みは薄い。
正直、お先真っ暗とはまさにこの事だろう。
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