118 / 351
嫌だ!! 7
「全く、こんな所で盛らないでよ。びっくりしたじゃん」
いつもの調子で返され、蓮はバツが悪そうに視線を逸らす。流石に今のは大人げ無さ過ぎた。流石に呆れられてしまっただろうか?
ずっと片思いをしていた相手は、自分が素直になれず現実から目を背けたせいで、知らないうちに他の男に取られてしまっていた。
あんな思いはもう二度としたく無いと心に誓っていた筈なのに、自分はまた同じことを繰り返そうとしている。
「……怒ってないのかい?」
恐る恐る尋ねると、ナギは小さく苦笑してみせた。
「別に……。聞きたい事は山ほどあるけど、時間もないし。早く行こうよ」
「えっ? あ、あぁ。うん……」
怒っていないどころか、逆に早く行こうと促されて蓮は少し拍子抜けしてしまった。
それとほぼ同時、ロッカールームのドアをノックする音が響き、続いて「ナギ君、蓮君いる? もうすぐ今日のミーティング始まっちゃうよ」と心配する雪之丞の声が聞こえて来る。
「ほら、ね? 早く行こ」
先に立ったナギが、いつもの表情でロッカールームのドアを開ける。しかし、途中でその手を止めて、躊躇いがちに蓮を振り返った。
「……?」
ドアの取っ手に手を掛けたまま、動きが止まったナギに、首を傾げる。
「……話は、後で聞かせてもらうから。じっくりと、ね?」
意味深な笑みを浮かべ、雪之丞にも聞こえるような声で呟いたナギに、蓮の顔が引き攣る。
「じゃぁ、先に行くから」
パタパタと去っていく後姿にはぁ、と大きなため息が洩れた。
「……今のは、ボクに対する当てつけか宣戦布告、かな……?」
「いや、多分全然違うと思う。って、宣戦布告??」
一体何の話だと、今度は困惑気味に眉を寄せる。
「いいや、何でもない。それより、蓮君も行こ?」
「あぁ、うん。悪いねわざわざ声を掛けに来てくれて」
「いいよ。ボクがそうしたかっただけだから」
「え? 何か言った?」
「何も言ってないよ。さ、急ごう」
蓮の背中を押しながら、雪之丞は小さく笑って眉を下げた。
ともだちにシェアしよう!