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縮まる距離感

現場に行くと既に集まっていたメンバー達が輪になって何やら打ち合わせをしている最中で、蓮と雪之丞は揃って顔を見合わせた。 「あ! やっと来た。オッサン準備遅すぎじゃない?」 「ハハッ、ごめんごめん。 で? みんなで集まって何やってるんだ?」 相変わらずクソ生意気なガキだと心の中で悪態をつきつつ、いつも通りを装って近づくと、近くに居た弓弦が少し長めの前髪を耳に掛けながら、少し困ったように肩を竦めた。 「撮影時間までまだ少し時間があるので、配信する中身をどうするか考えていたんです」 その言葉に、そう言えば色々あって忘れていたが、昨日そんな話も出ていたなと思い出す。 だが、今はそんな事よりも自分達より先に行ったナギの事が気になった。チラリと彼を見てみれば、ロッカーであった出来事など何事も無かったかのように平然としており、さらに目が合うとにこりと微笑まれてしまった。 (さっきのあれは、夢だったのか?) そう錯覚してしまいそうになる程、ナギの様子は普段と変わらない。 もしかしたら、本当に何とも思っていなかったのかもしれない。それはそれでなんだか複雑な気もするが、ギクシャクしたままの状態で周りに気を遣わせるよりはマシかもしれないと思いなおし集まっている皆に視線を移した。 「配信の内容、全然決まらなくって……番組の撮影裏話とかいいんじゃないかって思うんだけど、地味だからそれだけじゃ面白くないってはるみんが言うの」 「だって、折角の配信なんだぜ? それだけじゃ絶対つまんないって! うちには天下の草薙君が居るんだから、それを利用しない手はないって」 横から口を挟んできた東海の言葉に、結弦の眉間の皺がさらに深くよる。 「だから、どうして私だけなんですか! 私が晒すなら皆さんだって晒して貰わないとフェアじゃないです!」 「まぁ、確かに結弦君の言う事も一理あるよな。俺は賛成」 ナギが賛成の意を示し、チラリとこちらに視線を向けて来て、蓮は思わずギクリと身体を強張らせた。 「ね! お兄さんもいいと思うでしょう?」 「えっ、僕かい? 僕はえーっと……」 ナギにいきなり話を振られ、戸惑う間もなくキラキラとした目で見つめられて同意を求められ返答に困った。 正直あまり乗り気ではない。何故ならば、自分が話題の中心になるのはどうも苦手だ。それに、自分のプライベートなんて見たい人居るのだろうか? と言う疑問も単純にある。

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