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縮まる距離 3
本日予定していた収録をすべて終え、身支度を整えてからスタジオを出る。
今日の撮影はいつも以上にハードだった。
寝不足で挑んだせいもあるだろうが、容赦ない兄のダメ出しに何度舌打ちをしたことだろう。
体調管理も役者の仕事だと言われたときには、誰のせいで眠れなくなったと思っているんだ! と、食って掛かりそうになった。
実際に行動に移さなかった自分を褒めてやりたいくらいだ。
結局兄は昨日のことについては一切触れず、いつもどうりの本心が全く読めない表情のまま、ただ淡々と監督業をこなしていて、それがまた腹立たしい。
昨日、あんなことがあったのにも関わらず、まるで何事もなかったかのように振る舞うのは一体どういう了見なのか? こっちは気にするなって言われても無理なのに……。
イライラしている原因の大半は兄の謎発言と圧倒的に足りていない睡眠時間によるものだと結論付け歩いていると、ちょうどマネージャーと話をしているナギに遭遇した。
「やっと来た。もう、遅いよお兄さん」
「え?」
「ほら、行こ」
グイッと腕を引かれて、戸惑う。一体何処に連れて行こうと言うのだろうか。
「えっ? ちょっと! 一体何処に……」
「俺のマンション」
「!?」
「朝言ったでしょ? お兄さんの正直な気持ち、ちゃんと聞くまでは帰さない
から」
逃がさないよ。と、にっこりと意味深な笑みを浮かべるナギは天使のようでいて、腹の奥底にどす黒い何かを隠しているような、そんな危ない気配を漂わせていた。
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