136 / 351
トラブル続きのスタート 5
「……ッ、お兄さんって、時々すっごい恥ずかしい事言うよね」
「ご、ごめん」
あれ? 何かおかしなことを言っただろうか? 自分は何を間違えた?
ぐるぐると考えを巡らせながら、チラリとナギを見れば、彼は耳を真っ赤にして俯きながらコーンスープを飲んでいた。
テーブル一つ挟んではいるものの、相手が凄くドキドキしているのが伝わってくる。
なんだかこっちにまでソレが伝染してしまいそうで、誤魔化すようにトーストを齧り、落ち着かない気持ちをなんとか抑えようと試みる。
なんなんだろう。胸の奥がムズムズする感覚。今まで味わったことのない感情が溢れて来て、心が満たされる。もっと彼に触れたくて仕方がない。
「……ねぇ、お兄さん」
ナギの声色が変化した。甘い空気を感じて戸惑う蓮の目の前に、身を乗り出して来たナギの顔が近付く。
「キス、しよ?」
「……え?」
「ダメかな?」
「だ、駄目ではないけど……」
テーブルを脇へ押しやり、手からカップを奪って置くや戸惑う蓮を押し倒した。
「ん……」
軽いキスの繰り返しが擽ったい。目が合って魅惑的な視線が絡むとドキリと胸が高鳴った。引き合うみたいに唇を寄せ合い、何度も角度を変えて啄ばみあう。グッと押し付けられたナギの下腹部の存在にぎくりとして、蓮は腕の中からナギを見上げた。
「おい、これから仕事……」
「大丈夫。マネージャー来るまで時間あるし……。もう少しだけ、こうしていたいな」
そう言ってギュッと抱きつかれ、躊躇いがちにその細い身体に腕を回して抱きしめ返す。
お互いの鼓動が伝わって来る。ドクンドクンと脈打つ音が妙に大きく聞こえるのは、きっとそれだけ自分の心拍数が上がっているからだろう。
「お兄さん、凄くドキドキ言ってる」
「そっちこそ」
クスクスと笑いあって額を合わせる。そのまま至近距離で見つめあいながら再び唇を重ねようとしたその時、ピンポーンと言うチャイムの音が二人の動きを止めさせた。
「えっ、もう来たの!? 早くない!?」
ガバッと起き上がったナギが慌てた様子で何やらモニターに話しかけている。
その様子になんだか可笑しさが込み上げてきて、思わず吹き出してしまった。
こんな自分は知らない。今まで誰かと付き合ったことなんて一度も無かったから、恋人同士の距離感なんてものがイマイチよくわからない。これが普通なんだろうか? それとも、違うんだろうか?
今までヤりたいという気持ちはあっても、こんな風に触れたいと思ったのは初めてだった。
こんな些細なやり取りでさえ、なんだかくすぐったくて、楽しいと思えるのは何故だろう?
これが恋というものなんだろうか? まだハッキリとはわからないけれど、少なくとも今この瞬間、蓮はナギと一緒にいる事がとても心地よく感じていた。
ともだちにシェアしよう!