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気付いてよ!
(ナギSIDE)
「ゆきりーん、ちょっと飲みに行かない?」
全ての撮影が終わった後、ナギは蓮ではなく雪之丞にそう声を掛けた。
勿論、蓮が側に居るのもわかっているし、わざと聞こえるように言ってやったのだ。
案の定、彼の眉間にはみるみるとシワが寄っていく。
だが、ナギはそれに気付かない振りをしてニッコリと満面の笑みを浮かべながら、雪之丞の肩に腕を掛け何も気付いていない風を装いながら言葉を続けた。
「一度サシ飲みしたかったんだ。積もる話もあるし……ね? いいでしょう?」
「で、でも……蓮君はいいの? ……付き合ってるんでしょう?」
「フハッ、いいんだよ。気にしなくて」
不安そうな雪之丞に思わず吹き出してしまう。すると、蓮がギロリとこちらを睨んできたのがわかった。
自分は嫉妬する癖に、こっちのヤキモチには気付かないなんてどんだけ鈍いんだ。
「あのニブチンには少しお灸を据えなきゃわかんないんだよ。きっと」
そっと唇を寄せ耳元で囁くように言った。すると、雪之丞も思うところがあったのかプッと小さく噴き出し、クスクスと笑い始める。
「確かに? 蓮君鈍いんだよね……」
「だろ?」
「うん、いいよ。行こうか」
雪之丞はにっこりと笑って承諾してくれた。
「よし。決まり♪ 実はさ、すっごい面白いオーナーが居るバーがあるんだ。ちょっとインパクトあるけど、いい人だから。そこでいい?」
「へぇ、僕あんまり外で飲む事無いからな……。お任せで」
「了解♪」
蓮を挑発するようにわざとチラリと流し見て、雪之丞の腕に自分の腕を絡める。途端に、蓮の顔が歪んだのが見えた。
(ほんっと、わかりやす!)
内心ほくそ笑んでいると、雪之丞が困ったような表情を浮かべながら小声で話しかけてきた。
「あの、蓮君が凄い形相で見て来てるんだけど……」
「大丈夫だよ。ほら、早く」
「う、うん……。なんか怖いなぁ」
「平気、平気。多分、こうでもしないとわからないんだよ。気にしなくていいってば」
ヒソヒソと会話をしながら、雪之丞を引きずるようにして歩き出す。
そして、後ろから追いかけて来る気配を感じてニヤリと口角を上げた。
「やべ、ストーカーかよ」
「……一緒に連れて行ってあげたら?」
「ゆきりん、優しすぎ! それじゃぁあの人の為になんないんだから! あー、でもそれなら、飲みに行った後3人でホテルにでも行っちゃう?」
「んなっ!? はっ!? な、なっ……な、何言って……っ」
「あははっ、冗談だって。本気にしちゃダメじゃん」
「なっ、そ、そっか……冗談……。びっくりさせないでよナギ君」
「でもちょっと期待したでしょ、ゆきりん」
「……それは……っ」
真っ赤になって慌てる雪之丞に、ナギは思わず盛大に噴き出してしまった。
ホントに、こっちはコッチでいい反応をしてくれるし、こう言う面では凄く初心で可愛い。
蓮が虐めたくなるのも少しはわかる。
ナギは楽しそうにクツクツ笑いながら、雪之丞の肩を抱いて店へと向かって行った。
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